3.アメリカにおける教員の団体交渉と給与についての先行研究

アメリカでは、1962年に教員と教育委員会の間に団体交渉協約が結ばれ、現在ではほとんどの州において教員による団体交渉が行われている。教員組合の果たす大きな役割である団体交渉が給与決定に対してどれほどの効果を持っているかをまず確認したいと考え、以下、先行研究を分析することによって教員給与に団体交渉がどれほどの効果をもたらすのかについて明らかにすることを試みた紀伊の論文(注)を参考にまとめた。

(1)仲裁および争議権(ストライキ権)の存在がもたらす影響


団体交渉における仲裁およびストライキの存在が、教員組合にとって防御的な戦略として有効に作用している。
また、団体交渉の難局を解決する方法の選択に関して、公共政策としてストライキ(自発的解決)と仲裁(公共サービスへの影響を最小限に食い止める解決)のどちらを選択しても教員給与に対する効果は同一であるともいえる。

(2)交渉における賃金比較が教員給与にもたらす影響


1940年代後半のロスによる研究*1により、団体交渉における比較が賃金の均衡基準として作用し、労使双方に効果をもたらすことが実証された。さらに、オルソンとジャリーによる調査研究*2よって、交渉過程における賃金比較が仲裁人の裁定に及ぼす効果について検証がなされた。その結果、仲裁人は決定を下す際に、教員組合と教育委員会が交渉過程で行った比較可能な他学区との給与比較に大きく影響を受けていることが示された。
以上のことから、紀伊は以下のようにまとめている。
団体交渉の中に仲裁またはストライキ権が確立されていることは、交渉における給与上昇をもたらすこととなり、教員給与の上昇に団体交渉は貢献していると考えられる。現在の状況では、教員のストライキを認める州は13州であるが、認めていない州でも最高裁判所が公務員や教員のストライキを認める判決を出すに至っている。
また、差し止め命令も、回復が見込まれないような損害が予想される場合を除いて発令されず、教員のストライキの影響を評価するような動きもある。このことは、団体交渉においてストライキの利用可能性が拡大されつつあると意味づけることができ、このような状況下における団体交渉での給与論争は、賃金上昇に効果をもたらすものだということができる。
さらに、比較可能な他学区で既に交渉により決定された給与と比較するという給与比較が教員給与にもたらす効果は、両当事者間の交渉のみならず、仲裁による解決の際にも給与上昇の方向に作用していると判断できる。


(注)紀伊美香子『アメリカにおける教員給与と団体交渉との関係』「東京大学大学院教育学研究科教育行政学研究室紀要」第16巻(3)(1997年)
*1 ロス(Arthur M. Ross, 1947)によると、組合にとって賃金比較は組合役員に重要な基準を提供し、雇用者にとって賃金比較と一致した決定額を示すことは選挙人に公正さを示すことにつながり、双方に利益をもたらすと考えられる。Arthur M. Ross, Trade Union Wage Policy, Berkeley :University of California Press(1947)
*2 Craig A. Olson & Pauel Jarley, Arbitrator Decisions in Wisconsin Teacher wage Disputes, p.541.  団体交渉解決に際して、他の学区との給与比較が仲裁人の妥当な賃金新年に大きな影響をもたらすという仮説を立て、モデルによってそれを検証。組合が提示した給与上昇の平均率8・9%に対し、教育委員会が示した上昇率の平均は3.04%であり、平均格差は5.9%であった。さらに、裁定によって決定した上昇率は7.37%であり、これは組合側が論争において52%勝利したことを示している、との検証結果を導き出した。

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