プロジェクトの概要

本プロジェクトの目標

本プロジェクトは、筑波大学生涯発達専攻カウンセリングコースを中心に結成されたプロジェクトであり、広域災害時における各種の災害救援者(消防職員、看護職員、小中学校教師、保育士・幼稚園教諭など(以下「保育士」と表記)、障害者施設・高齢者施設等の介護施設職員、一般公務員)の惨事ストレスケアを目的とした、ピアサポートコミュニティ(ネットワーク)の構築とそのノウハウの構造化を目標としています。

具体的には、消防職員・看護職員に関しては、ネットワークの構築と質(サポートスキルの向上)と量(適性人数のネットワークの維持)の確保とネットワークの維持拡大を図るための手続きや方法論の創出を目指しています。また、研究プロジェクトとしても、看護職員と消防職員こうしたシステム構築プロセスとその活動を定量的に測定し、コミュニティ構築プロセスのノウハウの構造化を目標としています。

さらに、他の職種に関しては、東日本大震災時の職員に対するストレス対策の実態調査や意識調査を実施し、適切な惨事ストレスケアシステムを探索していく予定です。そして、これらの職種の災害救援者にとって適切な惨事ストレスケアのあり方を明らかにする事を目指して参ります。

これらを踏まえ、最終的には、広域災害発生時に、同職種の災害救援者の惨事ストレスを少しでも軽減しようという志を持った人々のネットワーク(コミュニティ)を構築する事が、本プロジェクトの目標です。また、この構築に伴い、各職種にあったセルフケアのマニュアルを作成していくことを予定しています。

本プロジェクトに関わる問題と現状

これまでの多くの研究(松井,2012など)によって、上記の災害救援者も広域災害時やその後に外傷性ストレス症状を示すことが明らかにされています。こうした症状は惨事ストレス(Critical Incident Stress)と呼ばれます。この惨事ストレスは、本人に心身の苦痛を与えるだけでなく、業務への支障を生じさせ、うつなどの併発により、早期離職や自死にも結びつく危険性も有しています。国内の惨事ストレス対策は、阪神・淡路大震災(1995年兵庫県南部地震)に始まり、東日本大震災(以下、「震災」)以降、急速に展開しています。しかし、その普及度合いは職種によって大きく異なっているのが現状です。

例えば陸上自衛隊では、グループミーティングと危機介入を中心とする対策が普及しており、震災前には各駐屯地にカウンセラーが配置され、隊員のストレスケアにあたっていたとされています。また消防では、各消防本部単位で対策が採られており、惨事ストレス対策の実施率は75%に達しているという報告があります(大規模災害時などにおける惨事ストレス対策研究会,2013)。さらに、先の大震災においては、総務省消防庁の緊急時メンタルサポートチームの派遣により、専門家(研究代表者を含む)による支援も行われました。

しかし、震災被災地の個々の消防本部では、こうした支援だけでは十分なケアが行えず、補完的に被災地外から自主的に入った消防職員によるピアサポートや、継続的なカウンセリングなどが必要とされていました(松井,2012)。多くの対策が用意されていても、現行の自治体消防の枠内では、被災してしまうと、他の自治体からの支援を受けなければ、職員に対して十全なストレスケアは行い得ません。

さらに、震災被災地の医療関係者に関しては、看護職員の惨事ストレスの高さが明らかになっています。しかし、その対策については、十分な実証研究は行われていません。加えて、被災地の自治体に勤務する一般公務員については、我々研究グループが継続的な調査を行い、被災と業務多忙による高いストレス状態を明らかにして参りました(桑原他、2013など)。さらに、各自治体やこころのケアセンターでは、多くのストレスケア対策が講じられていますが、被災地では大量の早期離職が見られており、ストレス対策が十分に浸透しているとは言い難いのも現状です。
他の災害救援者である保育士、教師、介護施設職員の惨事ストレスに関しては、被災によるストレスに関する実態調査や事例報告が単発的に発表されています。ですが、ストレスケアに関しては、体系的な検討は行われていないという問題もあります。

このように、自衛隊や一部の消防組織を除き、災害救援者の惨事ストレス対策の現状を見ると、職種によってその普及度合いや採られるべき対策の検証状況が大きく異なっています。したがって、国家レベルのストレス対策を採りやすい自衛隊や警察組織を除くと、多くの災害救援者のストレスケアは自治体単位、組織・施設単位に留まっており、被災地外の同職種の支援を受けざるを得ない現状にあるといえます。

以上の現状を踏まえると、今後、広域災害が起こった場合には、(自衛隊などを除き)多くの災害救援者が惨事ストレスに苦しみ、結果的に被災者・被害者の救援や支援に支障が生じる危険性があると考えられます。現在、災害救援者の惨事ストレスケアは精神医学的アプローチが中心ですが、精神医療の対象にならない惨事ストレス反応に対するサポートは十分とは言えません。災害救援者に対する必要かつ十分なストレスケアを行うために、ひいては、被災者に対する十全な救助・医療・教育・支援などを行うためには、災害救援者の同職種によるピアサポートコミュニティ作りは不可欠と考えられます。

そこで、本プロジェクトでは、広域災害時に被災地外から訓練された(研修を受けた)他地域の同職種者がピアサポートを提供するコミュニティである、ピアサポートネットワークの構築を目指しています。

プロジェクトの体制・メンバー

以下の複数のグループが連携しあいながら,知見を総合させていく体制を構築しております。

研究代表者およびその率いるグループ

研究代表者:松井豊
・看護チーム (リーダー:山崎達枝)
・消防チーム (リーダー:立脇洋介)
・公務員チーム (リーダー:松井豊)

教師・保育士グループ

代表者:藤生英行
・教師チームA (リーダー:藤生英行)
・教師チームB (リーダー:飯田順子)
・保育士チーム (リーダー:安藤智子)

介護施設グループ

代表者:大川一郎
・高齢者施設チーム (リーダー:大川一郎)
・障害者施設チーム (リーダー:小澤温)

本HPのトップページ画像につきまして

このページの上部に表示されているのは,「夜の奇跡の一本松(撮影:aomorigonta様)」です。震災後も昼夜問わず立ち続け,支援・救援活動に携わってこられた方々を支援するという本プロジェクトの方針,様々なストレスにさらされている救援者の方々が仕事を終え夜を迎えられた際の思いに寄り添うこと,そしてそうした方々が健やかに次の朝を迎えられるような支援・ケアを開発するという目的の灯を絶やさぬよう,本ページのトップ画像として使わせて頂いております。