ロサンゼルス統合学校区は、1996年度の初等・中等学校在籍者数約66万7千人のカリフォルニア州最大規模の学校区であり、
またその内の68%がヒスパニック系で、黒人、アジア系、太平洋諸島系、ネイティブアメリカンを含めるとマイノリティの割合
は89%に達するほど移民子弟が多く在籍し、Proposition227の発端となった小学校がある(小林、2003)。
ロサンゼルス統合学校区では、Proposition227可決以前は州の教育方針のもと1988年に採択されたマスタープランによって
以下のような二言語教育プログラムが提供されてきた。
※1,2年目は授業の7割を生徒の母語使って指導し、3年目で母語の使用を6割から半分まで減らし、5年目には9割以上を英語
で指導することを目標とする。
@「Full/Modified Bilingual Program」
:スペイン語を母語とする生徒が、1学年に10名以上いるかもしくは続きの2学年に15名以上いる場合。
主要科目はスペイン語で指導し、音楽・体育・芸術などの科目を「Sheltered English」
(授業の大部分は英語を使って指導するが、必要に応じて子どもの母語を使って説明を行う)で指導する。
A「Oral Primary Language Development Program」
:アルメニア語、広東語、韓国語、フィリピン語、ベトナム語などの言語を母語とする生徒が、1学年に10名以上いる
かもしくは続きの2学年に15名以上いる場合。主要科目は生徒の母語または「Sheltered English」で指導する。
B「English Language Development Program」
:言語的に多様な生徒が在籍する場合(具体的には@、Aの条件を満たしていない場合、もしくは親の要請がある場合)。
「Sheltered English」で指導する。
しかし、こういった二言語教育プログラムはProposition227の可決によって方向転換を迫られ、1999年にはマスタープラン が改定され、「Structured English Immersion」がそれまでの二言語教育にかわってLEPに対する教育の中核となった。 この「Structured English Immersion」は英語を母語としない生徒のために特別に考案されたもので、授業は原則として英語 で行われる。生徒の英語能力のレベルに合わせて授業が進められ、教室には教師あるいは助手が配置され、生徒の母語による 手助けが期待できる。また、改定マスタープランの中では、生徒の親に対して、複数の教育プログラムから選択する機会のある ことが明記されている。
こうしたLEP生徒に対する教育プログラムの転換の後、LEP生徒の英語力は向上しているのかという教育効果については Proposition227が可決された1998年から翌年の1999年にかけて特に注目が集まり、かつ多くの議論がかわされた。 具体的な数値結果としては、カリフォルニア州が公認している統一テストの1つであるSTAR (Standardized Testing and Reporting)テストがあるが、このテストの「English Language Arts」においては Proposition227が可決された1998年度以降、2003年度まで連続してLEP生徒のスコアに向上傾向が見られた。これには、 @テスト結果の向上は英語を母語とする生徒を含めてすべての学年で見られるAスコアが比較的高かったのは低学年の子どもで、 今後高学年になるにつれて授業についていけない生徒が出てくる可能性があるBスコアの上昇はカリフォルニア州が過去数年間 にわたって行ってきたクラスの少人数化、発音と綴りの練習の強化、財政面での支援といった教育改革が大きな要因である C学校側がテスト結果を重視するようになり、このような統一テストに生徒が慣れてきた、といったことから教育効果を疑問視 する声もあったが、少なからず二言語教育反対派の主張の根拠となった。
しかし、2004年度以降は2007年度まで生徒全体の平均が上昇傾向にあるにもかかわらず、LEP生徒のスコアは連続して下降している。
【ロサンゼルス統合学校区のSTAR(English Language Arts)得点変化(2002-2007年)】
2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | |
英語学習者 | 290.0 | 300.9 | 304.2 | 303.0 | 299.5 | 296.9 |
生徒全体 | 312.8 | 321.7 | 325.5 | 324.9 | 327.2 | 329.3 |
※数値は第5学年の平均を表す。
※California Department of Education, Standardized Testing And Reporting(STAR) Resultsより作成。
また、カリフォルニア州におけるSTAR(English Language Arts)においても英語学習者の得点率の伸びは全体に比べて差がある。
【カリフォルニア州のSTAR(English Language Arts)得点率変化(2003-2006年)】
サブグループ | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 |
英語学習者 | 10% | 10% | 12% | 14% |
経済的に不利な生徒 | 20% | 21% | 25% | 27% |
経済的に不利ではない生徒 | 49% | 50% | 56% | 58% |
すべての生徒 | 35% | 35% | 40% | 42% |