NEWS & TOPICS

TOP NEWS & TOPICS 挑戦する教師になるために―修了生から,受験をお考えの皆さまへ

2021.01.25 修了生の声

挑戦する教師になるために―修了生から,受験をお考えの皆さまへ

本カウンセリングコース28期修了生の一色翼さんより,本コースへの受験に至るまでの動機,通学・仕事・生活の両立,修士論文の執筆…など,幅広い観点から,院生時代の生活を振り返っての声をお寄せいただきました。受験をご検討されている方など,是非ともご覧いただければ幸いです。

「今,ここ」を

小学校教師として実践を重ねる中で,心の琴線に触れる時間を子どもたちと共有できることもあれば,反対に気持ちがすれ違ってしまうこともありました。保護者のみなさんとの関係性においても,子どもの成長を願うチームとして協働できることもあれば,連携の難しさを感じてしまうこともありました。同じように実践しているつもりなのに,この違いは一体どこから生じるのか?長い間,漠然と,しかし確実に自分に向かってくる疑問でした。もちろん,個人の特性や相性といった要因は確実に存在するのだと思います。しかしそれだけでなく,自分の教育活動が勘や経験のみに頼ったものであり,理論に裏付けられたものとはいえないということも,大きな要因の一つであると感じてきました。いつしか,「学びたい」という欲が,自分の内から沸々と湧いてくるのを感じるようになってきました。

学びを求め始めると,不思議なことに,同じく学びを求めている人たちと出会いました。自分を深く見つめ,自分の人生に挑み続けている人たちです。特に,本コースを修了している方々からは大きな影響を受け,これだけの人材を輩出した筑波に対して憧れの気持ちを抱くようになりました。「学びたい」が,「『筑波で』学びたい」に変わっていきました。とはいえ,学級担任を務めながら大学院に通学することなど,本当に可能なのか?そんな不安や迷いがあり,受験に踏み出すまでには数年がかかりました。この不安や迷いを振り払ってくれたのは,私が出会った子どもたちでした。小さな体を震わせながらも,「今,ここ」を全力で生きる子どもたち。そんな素晴らしい子どもたちと日々を共にする中で,教師である私自身も,自分の心に正直に,「今,ここ」を生きたいと思うようになりました。失敗を恐れず,挑戦する教師でありたいと願うようになりました。

実践の知をアカデミックの知へと

久しぶりの受験勉強を経て,運よく大学院に入学することができましたが,いきなり大きな壁にぶつかりました。大学院の入学式から数日後,午前中は学級担任として一年間担任する子どもたちと出会い,午後は保護者として自分の娘の入学式に参加し,夜は学生として大学院での初めての講義を受けるという,めまぐるしい事態に直面したのです。教師・父・学生それぞれの自分にとって,いずれも気を抜くことは許されない重要な節目の時です。現実の厳しさを突き付けられ,この調子ではすべてが中途半端になってしまうのではないか,責任を果たすことができないのではないかと,大きな不安を感じました。しかし,その翌日が,メンタルヘルスの講義だったことが幸運でした。「2年間,社会人大学院生として仕事と学生を両立することは,フィジカル的には厳しいものの,メンタル的には安定をもたらす」という言葉を伺えたおかげで,「昨日は自分の3つの夢が叶った,幸せな一日だった」と認知を修正することができたのでした。

そこからのM1生活は,大変充実したものでした。第一線で活躍されている先生ばかりなので,講義は最高におもしろい!特に,私の目的であった心理統計は,基礎から解析手法まで丁寧に教えてもらうことができたため,書籍に目を通すだけでは不十分であった部分まで理解することができました。さらに,講義後には先生方を囲んでお酒を飲み交わしたり,同期の仲間とイベントを企画したりと,贅沢な学生生活を謳歌することができました。

いよいよM2,修士論文を作成する年です。まず,私が学校現場で感じている漠然とした課題意識を,アカデミックな視点から概念化し,仮説モデルを創り上げることから始まりました。仮説モデルを構築するまでの一連の作業には,先生方のご指導が不可欠でした。アカデミックな専門知識と経験が必要となるからです。統計を学ぶことを目的としていた私ですが,この点にこそ大学院に入学する真の意義があったと,今は断言することができます。先生方のご指導に導かれ,よりシンプルに,よりロジカルに頭の中が整理されていったあの快感は,忘れることができません。仮説モデルが出来上がったら,いよいよ調査です。私の場合,関東圏内の20校以上の小学校に協力を依頼し,自分の足で調査用紙を配付・回収しました(郵送による配付やweb調査を活用している人もいたので,調査手法については様々です)。調査用紙を回収し終えたら,データ解析です。t検定,因子分析,重回帰分析,共分散構造分析…。ゾッとするワードばかりかもしれませんが,M1の時点で学んでいるので,おそらく大丈夫です。解析を終えたら,最後に修士論文としてまとめる作業に入ります。

出来上がった修士論文を眺めると,感情や主観が可能な限り排除され,客観的データのみに基づいた,ある意味で無機質な文字が並んでいます。しかしながら,その裏には確かな想いが感じられます。その想いとは,自分の想いだけでなく,指導してくださった先生方の想い,そして調査に協力してくれた方々の想い,その全てです。私にとって,学校現場で重ねてきた実践の知が,アカデミックの知へと昇華された至福の時でした。このような想いを味わわせてくださった先生方,同期の仲間・先輩・後輩のみなさん,そして,研究に向かうエネルギーをくれた子どもたちと保護者のみなさんに,この場をお借りして深く感謝いたします。

吾行く道を 吾は行くなり

筑波での夢のような時を終え,今感じているのは,ようやくスタートラインに立てたということです。「教育を科学する」ための最低限のスキルを身に付け,課題意識を修士論文として具現化することはできたものの,このままでは自分の研究は関係者の目に触れるだけで終わってしまいます。広く発表し,学校現場にまで届けることができてこそ,協力してくださった方々への恩返しとなり,この研究のゴールが見えてくるのだと感じています。

筑波で学んだことを胸に,失敗を恐れず挑戦する教師を目指して,これからも吾行く道を歩んでいきたいと思います。