取材・報道に関わっておられる皆様へ

今回の災害に冠して取材・報道活動をされている皆様に対し、市民の一人としてこころより感謝申し上げます。
皆さまのご活動のおかげで、多くの人に災害の実情が伝わり、援助が届けられるものと思います。
皆様の中には、十分な睡眠や休養の時間をとることなく、被害の現場や被災された方々に接し、情報の収集・発信を続けている方がおられると思います。心より敬意を表し、その御苦労の大きさをご推察いたします。

私たちはこれまで、2011 年の東日本大震災を含め、災害現場での活動中や活動後に体験されるストレスについて研究や教育等をしてきました。その立場から、皆さまのお役に立てることを願い、本文書をお届けいたします。

●災害や事故の取材・報道に携わられる方々は、活動中や活動後に、以下のような心身の変化を経験することがあります。これらは「惨事ストレス」と呼ばれるストレス反応の一部であり、厳しい現場を体験された場合には、誰でも起こりうるものです。

a)興奮状態、自責、焦燥感
寝付けず落ち着けない、なぜできなかったのか、もっとやらなくては、等の気持ちが起こります。

b)体験を鮮明に思い出したり、逆に避けようとする
写真や匂い等で思い出したり、話すこと書くことが煩わしくなったり、記憶が曖昧になったりします。

c)周囲との摩擦、孤立感
普段は感じないようなイライラや怒り、不信感、取り残されたような気持ちになることがあります。

●惨事ストレスの症状を防いだり和らげたりするために、心がけていただきたい点を簡単にまとめました。これらの中には、消防職員など組織的救援者の方の惨事ストレス対策として実践されているものが含まれています。

1)少しでも休養をとって。
取材・報道への使命感や義務感から、不眠不休で業務にあたられる方もおられると思います。被災者の方のために良い取材・報道を「続ける」ため、皆様の身体を大切にすることは非常に大切です。

2)仲間や上司との会話を。
仲間や上司と話し合う機会を作って下さい。災害を取材・報道された方がいる場合、お話を聞く機会を作ってください。取材時や報道後に感じられた体験やお気持ちを、胸にしまい込まず、言葉にして共有する機会をもつことは、個人にとっても組織にとっても大切です。

3)親しい方と接する機会を。
ご家族やご友人は、皆さんのことを気遣い、心配しておられることでしょう。その方たちと一緒に過ごしたり連絡をしたりすることで、気持ちを休め、またご家族や恋人やご友人も安心させて下さい。

●組織をとりまとめる立場の方におかれましては、ぜひ「組織が個人を守る(構成員のストレスと健康に配慮する)」というメッセージを発信していただくことを希望いたします。このことが結果的に、苦しむ人たちの側に立った取材・報道、そして被災者の助けになる活動にもつながると考えられます。

上記の内容に関連して何かありましたら、お申し越し下さい。私たちにできることは限られているかもしれませんが、できる限りお手伝いいたします。皆様のご無事でご活躍されることを祈っております。

2016 年4 月23 日
報道人ストレス研究会(代表:筑波大学心理学系教授・松井豊)
http://www.human.tsukuba.ac.jp/~ymatsui/index.html
E メール:cis.journalist ■ gmail.com (■ を @ にご変更ください)

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