災害ボランティアに参加される皆様へ

被災地に向かう災害ボランティアの皆様へ(2016.4.23)

岡野谷 純 NPO法人日本ファーストエイドソサェティ
松井  豊 筑波大学人間総合科学研究科
協力:災害援助研究会(堀洋元ほか)

災害ボランティアに参加されるみなさま、そして、送り出す企画をされているみなさま向けに、災害ボランティア参加者の心のケアについて配慮した方がよいポイントを整理しました。ぜひ参考にしてください。

参加されるみなさまへ

被災地での活動では日常ではありえない様々な経験をするでしょう。それはみなさまの心に大きく影響を及ぼします。大きな災害にあい、またはその場で活動することで、からだや気持ちに様々な変化(ストレス反応)が起こることがあります。これらの反応は、直接災害に関わったときだけでなく、被災された方から間接的にさまざまな災害体験を聞くことによっても生じることがあります。

気分や体調に影響を及ぼす様な目に見える形から、自覚できないような目に見えない形で心に傷を残すこともあります。あらわれ方や強さは人によって異なりますが、この変化は傷ついた心が回復しようとするときに起こる「正常な反応」で、「誰にでも起こる」ことです。これは、「惨事ストレス」と言われ、主に以下の様な反応が現れやすいと言われています。

普通、これらの反応は、時間とともに消えていきますが、時にその状態が長く続き、ふだんの生活や仕事、学業に支障をきたす場合には、カウンセリングや治療の助けをかりて改善できることがあります。

惨事ストレスの主な症状

※災害や事故で活動された皆さんに現われやすい反応は、以下のようなものです。以下のような反応が出ても、それはあなたが「弱い」からではありません。災害に何らかの立場で触れた人には誰にでも起こる反応なのです。

○興奮状態が続く

寝付けず気落ちが落ち着かないという反応はよく見られます。「自分は役に立たなかったのではないか」と自分を責めたり、「早くまた現場に行かなければ」という焦りが起こります。

○体験を思い出す

帰ってからも唐突に現場のことやその時の感情を思い出したり、夢に見たりすることがあります。

○思い出すことを避けようとする

現場での経験を問われることに嫌悪感を感じたり、自分自身思い出すことが煩わしくなったり、記憶そのものがあいまいになることがあります。現場に関する情報に触れることを意図的に避けようとすることがあります。

○身体の不調

不眠や頭痛、肩こり、めまいなどが出たり、疲れやすくなって仕事や学業への集中ができなくなったりします。

○周囲との摩擦

周囲の人に、通常なら感じないような不満や怒りを感じたり、不信感を持ったりしてしまうことがあります。

○話せなくなる

現場のことを話しても理解してもらえずないと感じて無理に胸の中にしまい込み、孤立感を感じてしまうことがあります。

繰り返しますが、これらの症状は心が回復しようとするときに起こる「正常な反応」で、程度の差はあれ「誰にでも起こる」ことです。あなたが弱いから起こるのではなく、正常であるから起こるもので、心が回復すると共に無くなっていくものです。自分だけは大丈夫と過信してはいけません。

万が一、1ヶ月以上経っても上記のような症状が緩和しないと感じたら、心の相談電話窓口など専門家のカウンセリングを受けましょう。

(参考)厚生労働省 こころの耳 熊本地震・東日本大震災 こころのケア(特集ページ)
http://kokoro.mhlw.go.jp/east-japan-earthquake/

惨事ストレスから回復していくために自分でできること

1)まずは帰宅後、ゆっくり休養をとってください(活動中にもマメに休息をとります)。興奮状態が続いているので「休めない」という気持ちになりがちです。けれども、心もからだも、本人が自覚しないうちに疲れがたまっています。まずは休養をとってください。あまりに寝られないようであれば、医師に相談することも有効です。

2)親しい方と一緒にすごして下さい。家族がいらっしゃる方はご家族と、恋人や友人がいらっしゃる方は恋人やご友人と、ともに過ごす時間をとってください。ご家族やご友人は皆さんのことを気づかい心配しています。その方たちと何気なく一緒にすごすことで、だいぶ安心でき、気が休まります。ご家族が被災地から帰ってきたら今度は皆さんが寄り添ってあげてください。

3)少し活動が落ち着いたら、一緒に活動してきた仲間と話し合う機会を作って下さい。現場で起こったことや感じたことなどを、仲間と話し合ってください。その後も、折りに触れ、一緒に活動した仲間と話をし、励ましたり、支え合ったりすることが大切です。

4)今回の災害では報道が長く続くと予想されます。現場や帰宅当初は何のストレスも感じていなかった方でも、報道を見ているうちにストレスを感じることがあります。徐々に辛さを感じてきたら、カウンセラーに頼ったり、地域の保健センターなども活用しましょう。

その他,惨事ストレスから回復していくために自分でできることについて

○ストレスの兆候が現れたら、恥じることなく自分の気持ちやストレスを感じていることを素直に認めましょう。
○自分の業務を仲間に引き継ぎ、一旦業務を離れましょう。
○自分の体験や目撃した状況、それに対する自分の気持ちなどを仲間と話し合ってみましょう。
○家族や友人とゆっくり過ごす時間を大切にしましょう。
○思い切って羽を伸ばし、十分に休みましょう。
○十分に眠れない場合は、体を動かすことや、可能であれば起きる時間や床につく時間を極力一定にするなどの工夫が考えられます。
○連日の飲酒は危険ですので、控えるようにしましょう。また、無理に他人にアルコールを勧めることはしないようにしましょう。

企画されるみなさまへ

参加されるボランティアが過剰な惨事ストレスを受けてこころの健康を害さないよう、企画の中で惨事ストレスケアを組み込んだ運営を心がけましょう。

企画を行う前に

○企画するみなさんが、まず「惨事ストレス」についての基礎知識と一般的な対応策について、関連する情報の収集、企画者間での共有をしておくことをおすすめします。
○参加者に対して、事前説明会や現地に向かう移動中車内などで、「惨事ストレス」について簡単なレクチャーを行いましょう。また、ストレスを受ける可能性がある状況・光景等について、スライドなどを用いて事前にシミュレーションをしておくと効果が見込めます。

企画の中で

○個人を募る場合であっても、かならずチームを編成し、その中でリーダー、サブリーダーなど役割分担を決めて現地に向かいましょう。これにより、仲間同士気持ちを伝え合いやすい雰囲気が生まれます。
○活動する前のオリエンテーションで「しんどくなれば、休んでもよい。場合によっては、抜けてもよい」ということを伝えることで、負担感を少なくすることもできます。
○毎日活動終了後にチームミーティングで一日の活動の振り返りや感想交流を行い、毎日の活動を評価し合いましょう。(ストレスがありそうなメンバーには終了後個別に対応しましょう)
○どれだけ忙しくても、メンバーを交代して休ませましょう。
○短期間の活動の場合は終了時、1 週間以上にわたる場合は毎週程度のペースでストレスチェックシートによる自己診断を行うようにし、自分のストレスを自覚できるようにしましょう。

(参考例)ストレスチェックのためのリスト:IES-R(改訂版出来事インパクト尺度)
https://www.human.tsukuba.ac.jp/peersupport/103-2/

企画の終了後

○企画を終えて帰宅する前や道中で、観光や温泉、メンバー全体での食事会など、災害を離れて日常に体を慣らすための仕掛け(クールダウン)をおこないましょう。
○帰ってしばらくしてから活動報告会や座談会などを企画し、参加者が自分の活動を話したり誰かに伝えるなど、思いをはき出すことができる取り組みも企画しましょう。
○参加者の合意の元に連絡表やメーリングリストを作成し、共に活動した仲間同士が継続して話し合い、励まし合い、支え合える環境を作りましょう。

(参考文献等)
○報道人ストレス研究会 惨事ストレス
「被災地から帰ったボランティアの皆様【大災害と惨事ストレス】」
http://www.human.tsukuba.ac.jp/~ymatsui/disaster_manual5.html#volunteer

参考:被災された方の心のケアについて

ボランティア活動を通じて、被災された方とのお話しする機会が多くあるでしょう。被災された方と接する上で配慮が必要となります。

接し方のポイント例

○一人にすることなく、接する機会をなるべく多く持つようにしましょう。
○親身になって話を聴きましょう。
○相手の感情をありのままに受け止め、むやみに励まさないようにしましょう。
○被災された方々の感情を受け止めましょう。
○心の問題以外の話にも耳を傾けましょう。
○話したくないときは、その気持ちを尊重しましょう。

そのほか、地元の方(行政職員・警察官・消防の職員、等)は、支援する側でありながら被災していることがあるため、疲労とストレスへの配慮も必要になります。また、被災された方と接する中で、前述したような「惨事ストレス」の反応に気づくことがあるでしょう。そのような状況があれば、そのことを活動リーダーや企画者に伝えることが望ましいです。
けっして、接した本人だけで抱え込まず、専門家の支援につなげることをおすすめします。

(参考)ボランティアとこころのケア 日本赤十字社
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/care1.pdf

■皆さんの活動が、被災された多くの人を救います。どうぞ、活動する皆様ご自身が辛い思いを残しませんよう、お互いにも気遣い、声をかけあってください。
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