筑波大学 人間系 障害科学域柿澤敏文研究室

視行動・読書行動 /
ICTアクセシビリティ / 空間認識

視行動・読書行動

 Legge, G. E. (Psychophysics of Reading. Vision Research, 25, 239-263, 1985)は、弱視者の読書行動を規定する要因として、読材料の特性(サイズ、コントラスト、フォントの種類など)、読み手の特性(視野の異常の有無、透光体混濁の有無など)、視覚補助具の種類について検討し、おのおのが読書行動に及ぼす影響の強さについて定量的に明らかにしています。この研究を端緒として、「弱視者の読書行動の科学」を確立するべく、多くの研究が進められています。
 これまでの研究において、その対象者の多くが中途視覚障害であり、読書行動の発達の観点の検討が必要です。弱視児童生徒における視覚の初期過程における情報の"ゆがみ"が読書行動という高次の情報処理過程の発達に及ぼす影響を検討する必要があります。
 弱視児童の読書行動において、中心暗点のある場合には対象の大きさに関わらず極端に視距離を縮めること、視野狭窄のある弱視児童では相対的に視距離が長いこと、ぼやけや羞明のある弱視児童は見やすい対象の大きさ(視角)があり、補助具を使用しない場合には視距離を調整することで見やすさを確保することが明らかとなっています。一方、弱視児童の眼疾患と受障時期が視行動の特徴を規定している可能性があることが示唆されています。

ICTアクセシビリティ

 近年、弱視児童生徒の視覚補助具として、従来の単眼鏡やルーペ、拡大読書器等のほかに、汎用性のある携帯端末等の機器(ICT)をその代替手段として活用する新たな可能性が探られています。これらのICTは、弱視生徒の学習支援において、理解しやすくて疲労の少ない教材・教具を手軽に提供できる可能性をもちますが、これまでの弱視を含む視覚障害児童生徒のICT活用に関する調査研究や事例研究はいずれも教育支援者に対する質問紙調査やインタビュー調査に限られ、アクセシビリティ保証のために視覚障害児童生徒自身の状態や特性等の何を考慮し、ICTの機能や性能に何を備えるべきかに関する実証的な研究・検討は今後の課題とされています。
 特に、現在進められている特別支援教育におけるICTの活用は汎用性のある携帯端末等の機器の利用を念頭においており、こうした携帯端末は、携帯性の確保ゆえに、表示ディスプレイの大きさに限界があり、一度に表示可能な文字数や行数に制約をもちます。視力等の視機能に障害があり見づらい状態を有する弱視児童生徒において、大きさに制約のあるICTのディスプレイへの表示では工夫が必要なのです。

空間認識

 私たちは、環境と自己との関係の理解を、視覚情報に大きく頼っています。静止しているときはもちろんのこと、移動している場合においても、刻々と変化する環境と自己との関係の理解は、多くの場合、視覚情報に頼っており、視覚情報によって環境と自己との位置関係や進むべき方向を見定めているといえます。
 ところで、視覚に障害のある子供、中でも視覚の活用が難しい盲児の場合には、視覚以外の聴覚や触覚等を活用して空間と自己との関係の理解を行います。聴覚や触覚等を用いた空間の理解は、それらの感覚情報が視覚情報と比較して非常に限られており、かつ、曖昧なため、容易なことではありません。盲児に対する空間と自己との関係の理解を促す指導は、「空間概念の形成に関する指導」として、従来から盲学校の「養護・訓練」や「自立活動」の重要な指導として位置づけられて、実践されています。
 盲児に対する空間概念の形成を促す指導は、まず自己の身体像の形成から出発し、次いで、聴覚や触覚的な手掛かりを活用した身近な空間と自己との関係の理解に進んでいくという方向で行われています。この場合、身体像から身体座標軸の形成へ、身体座標軸の形成から空間座標軸の形成へという筋道で一連の学習が行われる必要があり、こうした道筋で、一連の指導が何年にもわたって行われています。

PAGE TOP