No Child Left Behind法におけるAYP運用に関する一考察
―フィラデルフィア学校区へのstate takeoverを事例に―
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4、考察
営利組織経営への委託という新たな取り組みによって学力向上や不平等再生産是正をしようとしたこのState takeoverは、大変興味深い。しかしながら、上述されているように、本当にその目的達成に近付いているのかは疑問が残る。公立学校に営利目的の学校が入って、そこでの結果が上がらないのなら意味は無い。ただ、教育は効果が出ずらい面もあり、その点を少し考慮する必要があるだろう。
アカウンタビリティに関しては、やはり議論が尽くされるべきだと感じた。「風通しのよさ」は企業は持っているとさせるもので、その点を反映したかったのに、されていないのでは、学業成績に今後影響を与えかねないとも考えられる。
以上のことより、NCLB法でのAYP運用に関して得られる点は、企業経営を導入するのならば学校区が運営している手法とどのように違い、その違いがどれほど結果に結びつきうるのか、そして運営していくにあたり、生徒・保護者・地域住民へのアカウンタビリティを重視できているのかを考慮しなければいけないということがいえるだろう。
さらに、その企業自体が「永続的な低達成の学校・生徒」を救うという課題を念頭においているのかが重要でないかと考える。階層格差、再生産のもとは教育が担ってしまっていて、だからこそ変えていかねばならないのだということを忘れ、ただただ学業成績を上げようとし、さらに営利ばかりを念頭においてしまっては、本当の格差是正にはつながらないはずだ。
アメリカでの前例は、日本でも同様に考えられるだろう。東京都杉並区立和田中学校では進学塾講師が行う「夜間塾」を1月26日より開始した。 これは、フィラデルフィアでの企業経営導入と似た概念であろう。月謝は、数・国2教科で1万8000円、英を加えた3教科が2万4000円。正規の授業料の半額程度というから、費用の面では異なるが狙いは近いものがある。この和田中の夜間塾実施にも賛否両論あるだろう。ただ、やはりこの取り組みにも、永続的に続く格差の是正につながるのか、私個人では疑問である。新しいことを導入するにしても、改革をしていくにしても、日本の場合もアメリカの場合も地域それぞれ内包する問題は異なっており、その問題をしっかりと見極めたうえで決定しなければならないだろう。
1、問題の所在へ
2、state takeoverへ
3、フィラデルフィアでの実践とその評価へ
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