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2022.03.17 カウンセリング学位プログラム

「研究ができる皆さんは、本当に幸せ者です。」―修了生から,受験をお考えの皆さまへ

本カウンセリングコース30期修了生の福林直さんより,本コースでの日々を振り返っての一言,そして,入学をお考えの方へのメッセージなど,様々な思いをお送りいただきました。受験をご検討されている方もそうでない方も,是非ともご覧いただければ幸いです。

「研究ができる皆さんは、本当に幸せ者です。」

入学して間もない頃のオリエンテーションで、先生が話をしてくださいました。
目の前でご自身の研究について語る先生が、とてもエネルギッシュで楽しそうで、その姿に惹かれたことを覚えています。
当時の私は「幸せ者」の意味を、あまり深く考えていませんでした。この文章を書きながら、それが意味するところは何だったのだろうと、改めて考えてみます。

日中仕事をし、夜間や週末に勉学に励む日常は、確かに忙しかったかもしれません。しかし始まってしまえば何とかなるというところもあり、何より夜間や週末に大学に通い、多分野の先生、同期から学びを得る体験は、消耗する忙しさというより、根のところでエネルギーが湧いてくるような時間に満ちていました。

先生方の講義を通じ、さまざまな年齢・ステージの人の心理について学びを広げていく課程。そこに持ち込まれる、私が知らない世界での同期たちの経験。課題が重い、どうしてこうも文章が書けないのかと、苛まれることも多々ありましたが、世界が広がる感覚と、少しずつ習得していく喜びに上書きされていた気がします。
さらに2年目以降、自分の研究に向き合うようになった時、論文を読めば読むほど新しい概念や研究に出会い、その度に新たな世界の見方を手に入れていくような知的興奮は、たまりませんでした。論文を読み進めるほど知らない世界があることを知り、ちょっとした焦りと共に探究心に火がつくことの繰り返しです。次第にその領域の先駆者たちが蓄積してきた知見の地図が、頭の中にできていくような感覚と、その出発点となるような論文にあたった時の、宝物を見つけたような小さな喜びとに、夢中だったことを思い出します。
そうした先駆者たちの知見の上に、自分の視点を乗せていく経験は、自分の成したことの小ささと向き合う瞬間でもありながら、少し誇らしい気持ちがありました。(ここに導いてくださった先生に、深く深く感謝します。)

そうした2年を終え、そして今さらに2年が経過し、何を思うか。
この間、論文を読み漁り、研究計画を立て、調査分析をし、論文を書き、そうした息つく間のない生活から多少なりとも解放されていたことは確かです。しかし考えてみると、学問をする、研究をするということから、離れていた感覚はあまりありません。
それはなぜかと言えば、先生との継続的なやりとりと、カウンセリングコースで過ごした2年を通じて、探究する目と心を、自分の基本姿勢にしてこられたからではないかと思います。日々の身の回りのことへの興味と関心、探究したいという気持ちを無視しない姿勢。そして探究する術を、少しずつ身につけてきたのだと思います。

ここまできて、冒頭の「幸せ者」の意味を、私は今こう解釈しています。
探究する喜びを感じられること、探究することに尽きない世界に在る幸せを思える感覚。

一方で、学問をする人の幸せは、これにとどまってはいけないのだとも強く思います。
常に社会の中に在り、問う目を持ち、声をすくい、時に批判的に警鐘を鳴らし、人の生に某かの価値をもたらすこと。それが使命だと思っています。

学術的業績もほとんどなく、何を成し遂げた訳でもないのに仰々しいことを書きましたが、このことを忘れるなと、春から後期課程に進む自分へのメッセージを込めて、書き残します。このカウンセリングコースに興味を持ち、これからここでさらに人生を拓こうと思っている方に、多少でもこの貴重な体験と熱い時間の一端をお伝えできれば幸いです。

2020年度修了 福林直