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2022.03.19 カウンセリング学位プログラム

先生のお言葉と心理学の概念に支えられて―修了生から,受験をお考えの皆さまへ

本カウンセリングコース31期修了生の八木香さんより,受験前から現在に至るまでのプロセス,そして,入学をお考えの方へのメッセージなど,たくさんの思いをお送りいただきました。受験をご検討されている方もそうでない方も,是非ともご覧いただければ幸いです。


 私は、人材開発コンサルタントとして企業研修やコーチングの仕事に従事しており、修論研究でもこの仕事に直結するリーダーシップをテーマとしました。学位を授与して1年、学会誌への投稿準備を進める一方で、修論研究の成果を研修業務の拡充に役立てています。本稿では、受験前から今に至る過程で、先生からいただいたお言葉や勉強中に出合った心理学の概念から得た気づきについて振り返ってみたいと思います。

1. 受験前:「脳には可塑性がある」

 社会人大学院受験を検討する人にとっての最初の関門のひとつは、「今さら受験勉強なんてできるんだろうか」という不安ではないでしょうか。私が受験を思い立ったきっかけは、人材開発業務を発展させるには、それまで独学でつまみ食いをしていた心理学を体系的に学ぶとよいかも、という直感でした。受験の予備知識ゼロで臨んだ入試オリエンテーションで配布された「過去問題集」には、見たことも聞いたこともない7つの「心理学用語」…。8月の入試までに、この手の単語を覚えなきゃいけないのか!?と怖気づく一方、記述問題ならどうにかなるかも、という一縷の望みにすがり、「受験勉強参考テキスト」にリストされた書籍を片っ端から注文して受験勉強を開始しました。
 面白いもので、40年近く前の大学受験時のノウハウを思い出しながら勉強していくうち、錆びついた記憶力や忍耐力が徐々に復活してきます。折しも「脳には可塑性がある」「流動性知能は若い頃がピークだが、結晶性知能は老年期まで伸び続ける」という理論を知り、大いに勇気づけられました。やる気さえあれば、何歳になっても脳を鍛え直すことはできるんだ、と自分を奮い立たせて、受験を乗り切った次第です。

2. M1:「内発的動機づけ」

 入学式直後、懇親会で隣り合わせた先生に「研究計画書はどうやってブラッシュアップしていくんですか?」と尋ねたところ、さらりと一言。
 「自分でやるんですよ」
 学校=先生に教えてもらう場、という安直な考えが、瞬時に打ち砕かれました。ここは「学校」ではなく「大学院」であり、大学院は「勉強」ではなく「研究」をする場です。研究とは、誰かに教えてもらうのではなく、自らの課題意識を明確化して、先行研究という膨大な形式知に基づいて仮説を立て、客観的、科学的な方法で自ら探究するプロセスです。…などとわかったようなことが言えるのは、2年間を修了した今だからこそ。「自分でやるんですよ」と言われた瞬間は、どうやら先生の懇切丁寧な指導は期待できそうにないぞ、という予想を抱いた程度でした。
 その予想は、実は外れました。確かに、論文執筆のノウハウなど直接的な指導は限られるものの、必修授業の中では、先行研究の読み方やテーマの据え方、仮説・変数の設定の仕方など、研究に関する示唆がちりばめられていました。また、自分の研究テーマとは異なる選択課目でも、純粋に「面白い!」と思える心理学の概念や尺度などが紹介され、知的好奇心が満たされます。高校や大学と異なり、別に行かなくてもいい大学院にわざわざ入学して、自分の興味の赴くまま面白いと思うことを自由に追究する楽しさ、いわば「内発的動機」に突き動かされる醍醐味を味わえたのは、嬉しい体験でした。

3. M2:「Growth Mindset」

 そしていよいよ修論研究です。倫理申請してアンケート調査、データ分析から論文執筆と、全てが初体験の中で一番つらかったのは、「何がわからないかもわからない」という不安でした。M1で予習したとはいえ、いざ実践となると、細かい段取りも含めてわからないことだらけ。しかも、永年のビジネス経験で培った「効率的に物事を進める」「百点満点を目指すより7・8割でOK」といった考え方が、返って裏目に出ることも少なくありませんでした。本質を理解せぬまま勝手な判断で手を抜いていたことに、先生のご指摘で後から気づき、結果をほぼ執筆し終わった段階でデータ分析を一からやり直すという大失態もありました。
 そういう経験を通じて、自分は社会人経験を積むにつれて、「わかること」が増え、「物事にうまく対処する術」が身に着き、「わからない」「できない」「失敗した」という状況への耐性が減退していたことに気づきました。そこで役に立ったのは、発達心理学者であるキャロル・ドゥエック博士の達成目標理論にある、失敗から学び、さらなる成長への糧とする「Growth Mindset」の概念です。自分自身のFixed Mindsetを改め、失敗を恐れず、恥ずかしがらずに先生や同級生に尋ね、昨日の自分より1㎝でも1㎜でも前に進み続けることが、まさに生涯発達なのだと言い聞かせながら、どうにか修論提出にこぎつけました。

4. そして今:「本番はこれから」

 修論提出の2週間後、最終口頭試問はコロナ感染症対策でオンライン開催となりました。自分の発表が終わり、ほっと一息ついたところに、ご指導くださった先生からのチャットが飛び込んできました。労いのお言葉に続き、
「むしろ本番はこれからです!これをもとにどんどん発表・投稿していきましょう!」
 本番が終わった解放感に浸る間もなく、次のステップに向かって叱咤激励してくださる、まさにGrowth Mindsetの鑑のような先生に、改めて頭の下がる思いでした。
 「カウンセリング」と銘打つ本コースの最大の長所の一つは、先生方のスタンスそのものが、学生たちを温かく支えるカウンセリングスピリットにあふれている点です。カウンセリングを授業で学び、また公式非公式の場での先生方との交流を通じて、自分自身のセルフカウンセリング能力が高められ、ハードな2年間を乗り切るのに役立ったのではないかと思われます。のみならず、修了後も引き続き、このように先生の懇切丁寧なご指導をいただけることは、本当に有難いことです。さらに、同様に論文投稿を目指す同級生たちは、引き続き密にコミュニケーションを取り合い、共に励まし合う、かけがえのない存在です。

 本コースでの2年間は、人材開発をライフワークと考える私にとって、心理学の面白さと奥深さを知ることのできた、本当に貴重な時間でした。この場で巡り逢えた素晴らしい方々に支えられながら、生涯に亘り、心理学の勉強と研究に取り組んでいきたいと思っています。

2021年度修了 八木 香