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2023.04.20 カウンセリング学位プログラム

ケアする人を支えたい―修了生から,受験をお考えの皆さまへ

この春に本学位プログラムを修了された、33期修了生の亀井以佐久さんより,大学院を目指したきっかけ,入学前から入学後,そして修了を迎えたいまのお気持ちについてなど,思いをお送りいただきました。受験をご検討されている方もそうでない方も,是非ともご覧いただければ幸いです。


本大学院をめざしたきっかけ

私は幼稚園に勤務しています。大学を卒業後メーカーで約15年勤務の後、現在の幼稚園へ入職しました。幼稚園は子どもが通う場所であると同時に、保護者と、若手からベテランまでの保育者など、実に幅広い年齢の大人が集う場所で、ケアする大人が健康であることが大切だということを、強く感じていました。保育や子育てに対して不安やストレスを抱える大人と話す中で、私に知識や技術があり適切な援助ができれば、もっと人を元気にできるのではないかと感じるようになりました。さらに自分自身も人生の折り返し地点を迎え、人間の生涯発達における課題について、学びたいと思うようになりました。その時に目に留まったのが『傾聴だけでは十分ではない!クライエントに切り込むカウンセリング「ヘルピング・スキル」を考える』、というTCCPイブニングレクチャーでした。このような講座を世に提供している大学や先生方に強い関心を持つとともに、生涯発達の観点に基づくカウンセリング心理学について学べる、夜間の社会人大学院の草分け的存在である本大学院への進学を本格的に考えるようになりました。

その後、緊急事態宣言が発令され社会活動が停まる中、いよいよ自分で動き出さねばと思いました。身の回りでは人との物理的な距離だけでなく、心理的な距離も離れていくような、どうしてよいのかわからない、答えのない難しさを感じていたこともあり、その年の受験を決意しました。

入学前:受験勉強

私は本当に運が良く、試験をパスすることができました。幼稚園はずっとテレ・ワークというわけにいきませんでしたので、受験勉強は平日の起床時間を早めて出勤前に行うことと、夜帰宅後に体力があれば、という感じで継続的に学習することに注力しました。疲れて集中できないときはスマホをみて気分転換しようとする気持ちをグッと我慢し、入学後に授業で知りたいことを質問している自分の姿を頭の中で勝手に妄想していました。仕事や家庭を持ちながらの社会人は予定通りに学習が進むことの方が珍しいと思います。「1か月後にはこの参考書の第〇章の中身を完璧にする!」、などだいぶフワっとした大胆な計画を立てて「本業ありきの勉強」と割り切って学習するようにしました。

今振り返ってみると私の学習内容はだいぶ甘かったと思います。実際に入学されている方の中には予備校で学んできて受験されている方や、本職の心理職の方もいらっしゃり、そもそもの知識量ではかなわなかったと思います。隙間時間に本を読んで知識を得て、夜や早朝に言葉を書き出す時間にあてました。試験の直前には自分の専門である幼児教育や保育に関連のある心理学の知識について自分の言葉で語れるようになることと、やりたい研究(出願した研究計画)の先行研究を読むことに時間を割きました。先行研究を見ていくと、よく使われている尺度や必ず引用されている文献、自分の使うであろう研究法の種類などが徐々にわかってきました。さらに、どうして自分は研究をしたいのか、国立大学に入ってわざわざ研究をするからには社会的な意義が必要だ、と考え、お風呂に入りながら、布団に入ってから、子どもと公園で虫探しをしながら、ずっとグルグルと考えていました。こんな研究計画で、研究方法と分析はこれを使ってみようと考えています、というようなこと(それが妥当性があったかどうかは別として)をずっと受験まで考えていたので、原稿がなくても話すことができるようにはなっていました。

入学後1年目:多彩な心理学の学び

果たして入学をしてみると、どの先生の授業も大変工夫を凝らした内容で、先生方のご経験に裏打ちされた人間味に溢れたお話ばかり、あっという間に仕事と学校のダブルワークに慣れ、毎週の授業が来るのが楽しみになりました。私たちの世代はオンライン授業も多かったのですが、画面を通してでも人はこんなに心を通わせることができるのか!と、先生方の積み上げてこられたノウハウの質と、オンラインでも何とかしてそれを伝えようという工夫と熱意に頭が下がる思いでした。カウンセリングの実習の授業では講義で学んだ知識を、早速同級生や先生の前で披露する機会に恵まれました。今でもその時にフィードバックしてもらった言葉は、仕事で面談する際にも蘇り頭に浮かんできます。

冷静に考えてみると平日の夜18:20を目指して仕事の予定を調整し、関東近県から茗荷谷へ集まってくる、普通ではちょっと考えられない熱っぽい人たちの集団が社会人大学院の院生であると思います。職種はもちろん、年齢や育った環境・価値観が皆違う大人が意見を言い合いながら学んでいく、正に同じ釜の飯を食うが如くこれからの人生を共に切磋琢磨して進む仲間を得る経験でした。私のような心理学やカウンセリングについて初学者の人が気後れすることなく、参加しやすい雰囲気を醸成して下さった先生方や同期の院生の皆さんに大変感謝しています。豊富な事例を語り合い、グループで見立てを考えて、実際に役割を演じる体験もあり、授業で学んだ経験は私にとってかけがえのない一生の財産となりました。

入学後2年目:修士論文執筆

私は研究テーマが毎回の構想発表会でコロコロと変わり、最終的に定まったのは2年生の倫理申請をする直前であったと思います。指導教員の先生がテーマを絞ることを決して急がずに十分に探索をさせて頂いたことで、これ以上ブレようがないほど、色々な角度から叩いて検討と調整を重ねることができたと思います。しかしテーマが変わっても一貫して変わらなかったのはケアする人を支えたいという思いでした。大人も子どもも、人間は誰しも安心して十分に試行錯誤することができる場があって、自らの力を信じ成長することができます。保育の現場においてもその環境を作ることが重要であることを実証することができたので、成果を職場や社会に還元していきたいと思います。

修論の執筆の最終段階で忘れられない経験をしました。それはクリスマス・イブの土曜日のことです。指導教員の先生が朝から食事もとる時間も惜しんで私達学生のために校内を走りまわって次々に指導してくださいました。またゼミの修了生の方も同期の方の研究協力のために駆け付けてくださっていました。振り返ってみると大人になってから、社会人になってからここまで大切にされたことはなかったのではないか、これに応えないわけにはいかないと思いました。そこからは年末も元旦もデータ解析室に入り、納得のいく結果が得られるまでパソコンと向き合いました。自宅では寝落ちしないように栄養ドリンクを片手にキー・ボードを叩き、椅子からはほとんど動かないので太らないようにと、豆腐を主食にしながら36時間連続作業をしたこともありました。こうして何とか心理学の分野で修論という形にすることができ、自分もまだ頑張れるんだなと少しだけ自信を回復することができました。年末年始は家族をどこにも連れて行けませんでしたし、こんなに時間のかかる作業であったのにもかかわらず理解し協力してくれた家族と、何よりもずっと待ってくださっていた指導教員の先生に心から感謝を申し上げたいと思います。

私は在学中に学会発表をすることを目標にしていましたが、ラッキーなことに修了直前の3月に滑り込みで参加することができました。初めて参加した対面の学会はアカデミックでありながら、活気に溢れた「お祭り」のようでもありました。初対面の方が研究内容に賛同して下さったことや、予期せぬ質問によって自分の気づいていなかった課題が浮彫りになった時の「有難い」という感覚は忘れることができません。だからこそ、もう一度この場に立ちたいと思うと同時に、発表するためには「発表する価値のある研究」を続けなければ、との思いを強くしました。

修了後のこれから…

修了した翌月の4月のある朝、私は毎年のように入園したばかりの子どもと、園庭の「お山」と呼ばれる茂みの中で虫探しをしていました。少し薄暗い木の茂みの中でかくれんぼをしていると、なかなか子どもに見つけてもらえず、この時間がずっと続くのではないかと少し心配になることもあります。目を閉じて木陰で息を潜めていると、シジュウカラやメジロの囀りが聞こえてきてきました。その瞬間に春の土曜日の朝、茗荷谷で授業に参加していた場面を想起しました。東京キャンパスの1階で、少し緊張した気持ちで目を閉じていた時、自分の体に窓の外から入ってきた風があたるのを感じ、林から聞こえる鳥の声や、公園で遊ぶ子どもの言葉に耳を澄ませ身体の感覚に注目していたことが、朝の爽やかな空気と共に思い出されました。

現在はコロナ禍も終わりに近づき、保育の現場では再び行事や活動も復活し何かと気忙しくなってきているように思います。しかし、だからこそ私たちは一人ではなく、歴史ある筑波で出会った先生方や共に学んだ同期の皆さんとのかけがえのない時を胸に、「今ここ」に注目していきたいと思います。2年間の筑波で得た貴重な学びや資源を、現在の保護者や保育者の支援に生かして参ります。

2022年度修了生 亀井 以佐久