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キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

番外 PISA2015の結果が公表されました(2016年12月6日)

  •  今回は番外編です。本日(12月6日)午後7時に、PISA2015の結果が世界同時に公表されましたね。

     日本の高校1年生の平均点をみると、「科学的リテラシー」「読解力」「数学的リテラシー」ともに上位グループに位置しており、良好な成績となっています。今回は、コンピュータ使用型調査に全面移行し、得点化等の方策にも変更があったため、厳密な意味ではこれまでとの点数の比較はできません。また、参加国・地域も増加しているので全体の順位を云々するのも本来は意味をもたないと言えます。

     でも、気になりますよね。ちなみに、OECD加盟国内での順位だけを見れば、「科学的リテラシー(538点)」「数学的リテラシー(532点)」がともに1位、「読解力(516点)」が6位でした。前回1位だった読解力の順位が下がったことが目立ちますが、統計的には3位のアイルランドから9位のドイツまでは「同程度」の成績と判断されますから、「読解力低下!」と大騒ぎするほどでもないもかもしれません。無論、テキストを読む力はあらゆる学力の基本とも言えますので、今後の詳細な分析と検討が必要ですが…。

     とはいえ、総合成績はOECD加盟諸国中第1位ですので、世界に胸を張れる結果ですね。……でも実は、僕個人が特に嬉しかったのは、「将来自分の就きたい仕事で役に立つから、努力して理科の科目を勉強することは大切だ」「理科の科目を勉強することは、将来の仕事の可能性を広げてくれるので、私にとってやりがいがある」など4つの質問で構成される意識調査の結果でした。

     前回(PISA2012)の数学に関する同様の質問では「世界の最底辺」とすら言える散々な結果でしたし、理科についてほぼ同様の質問がなされたPISA2006では参加国・地域の中での「最下位」が日本でした。今回はどうかな、とハラハラしながら報告書を見たのですが、比較可能な71カ国・地域のうち、今回は64位と順位を上げています。……なーんだ、ずいぶん下の方じゃないか、と思われたかもしれませんが、PISA2006との比較では順位も肯定的回答率も大幅上昇です。肯定的回答率の上昇順では、イスラエルに続き参加国・地域中第2位を誇っています(OECD, PISA 2015 Database, Table I.3.3f)。やるじゃん、日本の高校1年生!

     次期学習指導要領では「各教科等での学びが、一人一人のキャリア形成やよりよい社会づくりにどのようにつながっているのかを見据えながら、各教科等をなぜ学ぶのか、それを通じてどういった力が身に付くのかという、教科等を学ぶ本質的な意義」を明確にすることが求められますから、今回の結果は大歓迎ですね。全国の小・中・高校の先生方が、理科を通したキャリア教育の実践の充実に尽力された成果として捉えてもよいのではないでしょうか。今後の継続的な改善に強く期待したいですね。

     もちろん、喜んでばかりはいられない側面もあります。

     まずは、男女差。日本の場合、学校での理科の勉強と自らの将来とを結びつけて捉え、理科を学ぶ意義を実感するのは男子高校生の方が多いのですが、男女の差は0.25ポイントとなっています。これはドイツの0.28ポイントに次いで大きな開きです(Table I.3.3c)。次に問題となるのは、「科学の話題について学んでいるときは、たいてい楽しい」「科学についての本を読むのが好きだ」などの質問によって示された「科学の楽しさ」を感じている生徒の割合における変容です。肯定的な回答率において若干ですがPISA2006からの後退が確認されたのです(Table I.3.1f)。以前から「理科は楽しくない!」と思う高校生が多いことが問題となっている状況の中で、これはまずい…。何らかの手立てが必要ですね。

     おっと……こんなことを書いていたら、日付が変わってしまいました。そろそろ帰って寝ないと、中高年の身ですので明日がしんどくなってしまいそうです。尻切れトンボをお許し下さい。

     以下、全くの蛇足ですが、PISA2015の結果についてネット上で速報した読売新聞、毎日新聞はともに、日本の順位にだけ焦点を当てていました。読売新聞は「読書量減少が原因?日本の「読解力」8位に低下」という見出しでしたし、毎日新聞は「<国際学力テスト>日本、読解力低下 科学・数学は改善」という見出しの下で、これまでのPISAにおける日本の順位の変容を示す折れ線グラフを掲載していました。参加国・地域の数が毎回違いますし、そもそも順位は「学力」の内実を示すものではないのですが、どうしてマスコミの皆さんはこういう書き方をするのでしょうね。もちろん、速報という制約も大きいでしょうし、わかりやすいことは大切なのですが、ちょっと悲しいなと思いました。無論、明日の朝刊やそれ以降の記事では、さすがにこんな書きぶりにはならないと信じつつ、この辺で帰ります。おやすみなさい。


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藤田晃之

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