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キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第13話 今、高校3年生に伝えたいこと(2017年1月15日)


  •  今日は大学入試センター試験の2日目でした。日本海側を中心に強い寒波と積雪に見舞われ、試験会場と自宅等との往復に苦労した受験生も少なくなかったと思います。受験生の皆さん一人一人が、それぞれの底力を十分に発揮できたことを祈っています。

     大学進学を希望する皆さんも、就職を希望する皆さんも、卒業まで残すところ僅かですが、体調管理をしっかりしつつ、すべき事に集中して取り組み、笑顔で卒業式を迎えられるようにして下さいね。

     さて、今回のよもやま話では、卒業を控えた高校3年生の皆さんにお伝えしたいことのあれこれを書きたいと思います。受験生の皆さんの多くは「それどころではない!」という状況かもしれませんが、全ての受験が終わった後にでも読んでいただけたら嬉しいです。就職を予定している皆さんの中には、すでに就職先が決まり、年末・年始にはほっと一息つけたという方も多いでしょう。そんな皆さんには、まさに今、読んでいただくことができれば光栄です。顔も見たことのないおっさんからの余計なお世話ですが、どうかおつきあい下さい。

    【新しい環境で人間関係に悩むことは当たり前】
     大多数の皆さんは4月から新しい環境に身を置くことになります。期待も不安も入り交じった感覚ですね。「うまくやっていけるかなぁ」と思うことは誰しも同じですし、「案ずるより産むが易し」ということわざがある通り、実際にはなんとかなるものです。安心して4月を迎えて下さい。

     もちろん、慣れ親しんだ高校の環境とは大違いの場に、すんなり溶け込めないなぁと思うことに遭遇することもあるでしょう。でも、そんなときに思い出して欲しいのは、「新しい環境で人間関係に悩むのはごく普通のことだ」という事実。実際に、大学生の悩みに対する各種の調査では「人間関係」が常に上位に挙げられていますし、高校卒業直後に就職した人を対象とした調査でも「人間関係」に悩む人が多いことが示されています。なにしろ、進学や就職の後に「人間関係」で辛い思いをするのは「自分がダメだからだ」と思い込むことだけはやめましょう。新しい環境で人間関係を作っていく過程においては、多かれ少なかれ、誰もが頭を抱える時期をくぐり抜けるものなのです。あなたがダメだから悩むわけではないのですよ。

     そんなときには、自分をよく見せようとか思わずに、自然体で、新たに出会った人に接しましょう。「新参者」ですから、分からないことがあって当たり前です。できないことが多くても当たり前。ポイントは「ええカッコしい」をしないこと。分からないことや、できないことは、誰かに教えてもらえばよいのです。教えてもらうことそれ自体がコミュニケーションですからね。(あ、もちろん、最低限読んでおくべき資料は読みましょうね。自分で情報収集の努力をせずに人に頼ることと、それらの情報では理解できないことを人に尋ねることとは全く別のことです。)

     それでもうまくいかないなぁという時には、迷わず相談です。大多数の職場にはそういった相談のための窓口が設けられていますし、大学等には保健管理センター等、専門の相談センターが設置されています。こういった窓口が身近にありすぎて相談しにくい時には、「働く人の『こころの耳電話相談』」や「働く人の『こころの耳メール相談』」を利用することもできます。また、幅広い悩みに電話で相談にのってくれる「よりそいホットライン」を利用してもいいですね。


    【「この仕事は自分には向いていない…」と投げ出す前に】
     高校卒業後就職する皆さんは4月から職業人ですし、進学する皆さんも数年後には圧倒的多数の人が職業人になります。就職時においては誰もが「頑張ろう」と思っているわけですが、その1年後、高校卒業後就職した場合は約2割、大卒の場合にはおよそ1割5分の人が離職している事実を知っていますか?

     そして、このように極めて早い段階で離職してしてしまう人たちが、離職理由として最も多く挙げるのが、「仕事があわない・自分には向いていない」です。上司が厳しい、顧客からのクレームがきつい、仕事自体が好きになれない…。その具体的な理由は様々なのですが、これらをひっくるめて「仕事があわない・自分には向いていない」と区分されることが多いようです。

     でも、ちょっと待って下さい。

     仮に、上に挙げたような具体的な理由があって離職したとしましょう。次の職場が運良く見つかったとして、そこには、天使のように優しい上司がいて、失敗しても全くクレームが来ない秘策があって、趣味のように楽しくワクワクする任務にあたれる保障がありますか? あなたに「伸びしろ」を見いだし、あなたに期待しているからこそ上司は厳しく指導しているのかもしれません。顧客からのクレームは「次回は同じ失敗をしないでね」というメッセージ、つまり、今後の「おつきあいの継続」を前提としたアドバイスかもしれませんよ。また、仕事の醍醐味は、ある程度継続しないと見えてこない部分も少なくないのです。

     もちろん、僕は、やみくもに「続けろ!」と言いたいわけではありません。でも、労働の対価としてひとさまからお金を頂戴してメシを食っていくということに、何らかの苦労がついて回るのは当たり前のことだということも視野に収めましょう。グッと歯を食いしばらなくてはならない時期もあるのだということを受け止めることも必要かもしれません。

     例えば、ある職場で4~5年間継続して働いてから次の仕事を探すのと、1年未満しか継続できずに離職して次の仕事を探すのとでは、雲泥の差があります。前者の場合、その職場で得た経験や専門的な知識・技能を自分の強みとして次の職探しができますが、後者、すなわち継続期間が1年未満の場合には、そういった強みはほとんど期待できません。しかも、後者の場合には、次の職探しのプロセスにおいて、「私は長続きしにくい人間です」という自分には見えない大きな文字が書かれた透明のビブス(ゼッケン)を身につけざるを得ないことも少なくないのです。

     繰り返しますが、僕は、やみくもに「続けろ!」と言いたいわけではありません。違法な長時間労働や、賃金の未払い、パワハラやセクハラ等々に耐える必要は全くない。職場の中にそういったケースに対応する相談窓口がある場合には、すぐに相談に行きましょう。万一、そのような相談窓口がない場合、あるいは、相談すれば更に不利な立場に追いやられてしまう可能性がある場合には、公共の相談窓口があります。

     例えば、「労働基準監督署」や「地域産業保健センター」が電話やメール等を含めて多様な方策による相談に乗ってくれます。そこまで深刻ではないのだけれど…という相談の場合には、既に紹介した「働く人の『こころの耳電話相談』」や「働く人の『こころの耳メール相談』」を利用することも手です。また、知らない人にいきなり相談するのは気が引けるなぁと思うのであれば、迷わず、卒業した高校や大学等に相談しましょう。高校の先生方や大学等のキャリアセンターの職員の方々がきっと力になって下さいます。

     自分の悩みは、グッと歯を食いしばるべきことなのか、あるいは、誰かの力を借りるべきことなのかについて判断できない場合には、迷わずに、即、相談ですよ。

     とにかく、「こんな仕事、辞めてやる!」と思ったとき、熟考せずに辞めることは避けましょう。1年未満での離職はもちろん、2年程度の継続期間しかない場合にも、それ自体がその後の再就職にとってマイナス材料になる場合があることを忘れずにいて下さい。


    【やむを得ず離職した場合には…】
     とはいえ、やむを得ず、職を離れざるを得ない場合も生じるのが人生です。こういった場合、次に就くべき職を探すために、どうしましょうか?

     多くの人は、「ハローワーク(公共職業安定所)」を思い浮かべると推測しますが、若年層を対象とした専門の支援センターがあることは是非知っておきましょう。

     例えば、「ジョブカフェ(正式名称は「若年者のためのワンストップサービスセンター」)」は、職探し初心者の若者に向けたきめ細やかな支援を提供してくれますし、「わかものハローワーク」に相談することも有効な手段です。また、働くこと自体に迷ってしまった場合、働くこと自体が辛い場合には、「地域若者サポートステーション(サポステ)」からのサポートを得ることも考慮してもいいですね。いずれにしても、一人で悩んだり、問題を放置したりすることは避けたいものです。

     なお、民営の職業紹介サービスを利用する場合には、2014(平成26)年度から、「職業紹介優良事業者認定制度」が開始されていることを知っておく必要があります。適切な職業紹介を受ける上での目安になりますよ。

     無論、どうしても前を向けない状態の時には、無理をすると心身に過度な負担をかけてしまう場合も想定されます。そんな場合には、医療機関への相談も視野に収めましょう。上に挙げた「地域若者サポートステーション」では医療機関との連携もしていますから、とりあえず、近くのサポステに電話を一本入れてみることが、大切な一歩になるかもしれません。


    【非正規で働くということ】
     最後に、いわゆる非正規の職に就いて働く際の留意点に触れておきます。2015(平成27)年現在、雇用されて働く人(役員を除く雇用者)の37.5%は非正規労働者です。ここには、パートやアルバイト、派遣社員、契約社員などが含まれます。皆さんが、非正規労働者として働く可能性自体が低くないことをまず把握しておきましょう。

     非正規の立場で働く場合、何より大切なことは、自分の権利についてきちんと把握しておくことです。例えば、パート勤務であっても週40時間を超えた労働に対する割増賃金(いわゆる残業代)は支払われますし、育児休業・介護休業制度等の措置も講じられます。また、派遣社員として働く場合には、一部の例外を除き建設・港湾運送・警備・医療関係の業務に派遣されることは違法ですし、派遣会社から段階的かつ体系的な教育訓練を提供され、専門的な知識や技能等の向上支援を受ける権利があります。こういったことを労働者本人が知らずにいて、悪徳事業主の「えじき」になることは絶対に避けなくてはなりません。

     皆さんの高校でも、キャリア教育の一環としてこれらのことを学ぶ機会はあったはずですが、皆さんはちゃんと記憶していますか? もし「すっかり記憶にないなぁ」という場合には、この機会に、その時に配付された資料を読み返してみましょう。「そんな資料、もうどこかに行っちゃったよ」という人は、次の資料に改めて目を通してみて下さい。
    パート労働者のためのキャリアアップに関する情報サイト「よくわかる労働法」
    派遣で働くときに特に知っておきたいこと

     なお、派遣労働についても、2014(平成26)年度から「優良派遣事業者認定制度」が運用されていますから、知っておくといいですね。

     高校卒業を目前とした皆さんに対するはなむけのメッセージとしては、いささかコムズカシイ話になってしまいました。中年オヤジはこういう説教めいた話をグダグダするから嫌われるのですね。お恥ずかしい限りです。皆さんに幸せになってもらいたい気持ちだけは誰にも負けないと自負しているのですが、気持ちばかりが先行してしまい、結局はウザくなってしまう……。皆さんのお父さんやおじいちゃんも同じかもしれません。気持ちに免じて、ウザい話におつきあいいただいた皆さんに感謝します。

     皆さんのこれからの人生が充実したものとなりますように。


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藤田晃之

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