お久しぶりです。「よもやま話」の更新が1か月以上も滞っておりました。ご心配をおかけ致しました皆様にお詫び申し上げます。(3月中の4回の海外出張で不在となった期間に蓄積した仕事、学年末・学年当初の雑務、小学校・中学校学習指導要領解説及びそれに関連する原稿等の作成、5月16日・17日にソウルで開催されたアジア地区キャリア発達学会
(ARACD)での発表などに時間がとられてしまいました。……と、言い訳を並べつつも、結局の理由は僕自身の能力の不足です。マルチタスクをカッコ良くこなせるようになりたいと長年思ってきましたが、この歳になってもできないということはきっとできないままなんだろうと実感しました。悲しいですが、現実は現実として受け入れる必要がありそうです。)
すみません。無駄口はこの辺で切り上げます。今回のお題は「『基礎的・汎用的能力消滅論(!?)』を検証する」です。
新学習指導要領の改訂の方向性を示した中央教育審議会答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(中教審第197号)2016年12月21日)が公表されてから、複数の方から「基礎的・汎用的能力って、これから使われなくなるんですか?」というご質問をいただくことがありました。それほど頻繁ではないので、「気になる人もいるんだなぁ」程度に思っていたのですが、つい先日、足元の「キャリア教育学研究室」に所属する院生の一人から、「ちょっとお尋ねしにくいのですが、基礎的・汎用的能力って、これから使われなくなるんですか?」という質問を受けました。
「ブルータス、お前もか?」…は全くもって大袈裟ですが、ちょっと動揺してしまいました。と同時に、「そうかぁ、そう解釈しようと思ったら、できちゃうよなぁ。」と改めて思った次第です。
で、今回は、「『基礎的・汎用的能力消滅論(!?)』を検証する」をお題にしました。おつきあいいただけましたら幸いです。
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まず、今回焦点を当てる「基礎的・汎用的能力消滅論」とも言うべき捉え方の根拠となり得る資料をご覧下さい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm
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このURLで表示される「別紙」のうち「別紙6 キャリア教育に関わる資質・能力(pp.26-27)」です。ここでは、「キャリア教育で育成をめざす『基礎的・汎用的能力』の4つの能力(『人間関係形成・社会形成能力』『自己理解・自己管理能力』『課題対応能力』『キャリアプランニング能力』)を統合的に捉え、資質・能力の三つの柱に沿って整理すれば概ね以下のように考えることができる。」と指摘され(p.26)、「キャリア教育における『基礎的・汎用的能力』と資質・能力の三つの柱」というタイトルの下で図にもまとめられています(p.27)。
しかも、今年3月31日付けで告示された小学校学習指導要領・中学校学習指導要領に眼を向けると、すべての教科等の目標が(1)(2)(3)と箇条書きにされており、それが順に「資質・能力の三つの柱」、すなわち「(1)
知識及び技能」「(2) 思考力、判断力、表現力等」「(3) 学びに向かう力、人間性等」に該当することは誰の目にも明らかです。
その上、小学校学習指導要領・中学校学習指導要領の総則では、「各教科等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら評価の場面や方法を工夫して、学習の過程や成果を評価し、指導の改善や学習意欲の向上を図り、資質・能力の育成に生かすようにすること。」と明示されています(総則 第3の2「学習評価の充実」)。ここでポイントとなるのは、「各教科等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から」児童生徒の学習の過程や成果を評価しなさい、つまり、目標に示された(1)(2)(3)の観点から(=資質・能力の三つの柱に沿って)評価をしなさい、と指摘している点です。
つまり、新しい学習指導要領では、目標-指導-評価の一体化を図るための確固たる枠組みとして「資質・能力の三つの柱」が位置づけられたわけです。
ということは、今後はキャリア教育も、そのベースは「基礎的・汎用的能力」ではなくて、「資質・能力の三つの柱」になるんだな。…これが「基礎的・汎用的能力消滅論」とも言うべき捉え方の根拠と言えそうですね。
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でも、実際はそうではありません。端的に言えば「基礎的・汎用的能力消滅論」は誤解です。
まず、答申の「別紙6」をもう一度読んでみましょう。「キャリア教育で育成をめざす『基礎的・汎用的能力』の4つの能力…を統合的に捉え、資質・能力の三つの柱に沿って整理すれば概ね以下のように考えることができる」と示されています。つまり、「基礎的・汎用的能力」を「資質・能力の三つの柱」に沿って整理し直してみると、矛盾なく示すことができる、という事実を示しているに過ぎません。
次に、新学習指導要領が示している目標も評価も、各学校段階における「各教科等」に関するものであることを再確認しておく必要があります。つまり、「資質・能力の三つの柱」すなわち「(1)
知識及び技能」「(2) 思考力、判断力、表現力等」「(3) 学びに向かう力、人間性等」が、目標-実践-評価を貫く枠組みになるのは、当該学習指導要領の拘束力が及ぶ範囲の各教科等(=学習指導要領の目次に「章」や「節」」として挙げられた国語、社会、算数・数学等々)に限定されるわけです。これをお読みくださっている多くの皆様がご存じの通り、教科等の目標の示し方や評価の観点は、学習指導要領の改訂の度に見直されます。事実、現行学習指導要領に基づく評価は「4観点」ですから、それが次期学習指導要領においては「3観点」に再整理されることになります。無論、将来的な学習指導要領の改訂において、これが再び見直される可能性は常に否定できません。
一方、キャリア教育は、就学前段階から高等教育段階まで継続する系統的・体系的な指導・支援・援助等の教育実践です。学習指導要領の拘束力が及ぶ学校段階、しかも、そこでの教科等を対象とした枠組みをキャリア教育に当てはめるとしたら、短大や大学等の高等教育機関への接続の際に様々な矛盾や混乱を引き起こすでしょう。保育所等を含んだ就学前段階におけるキャリア教育、及び、多様な高等教育機関におけるキャリア教育をも広く包含する枠組み、すなわち「基礎的・汎用的能力」がキャリア教育にとっては必要不可欠なのです。
また、キャリア教育に関連した主要な活動や体験等の記録は、キャリア・パスポートと呼ばれることになるポートフォリオに保存され、学年や学校種を超えて引き継がれることになります。ここで仮に、新しい学習指導要領が小学校で全面実施となる2020(平成32)年度に小学校に入学する子どもを想定してみましょう。その次の学習指導要領の改訂もほぼ10年後だと仮定して、そこで、目標や評価の枠組みが変更されるとしたら、その子のキャリア・パスポートは2029年度、すなわち、高校1年生のページから、別の枠組みに基づくものとなってしまいます。これでは困りますよね。キャリア教育の場合、学習指導要領の改訂の度に変更される可能性が高い枠組みとは別の枠組みに依拠しておく必要があると言えます。
無論、「基礎的・汎用的能力」も人の手によって創られたものですので、未来永劫不変であるはずはありません。時代の流れ、社会の変容などによって、今後、見直されることは十分想定されます。けれども、学習指導要領の拘束力が及ぶ範囲の学校段階、しかも、そこでの教科等に対象を絞り、ほぼ10年に一度の頻度で再検討されることが確実な枠組み(=今回の改訂で言えば「資質・能力の三つの柱」)に依拠するデメリットのほうが大きいことは自明ではないでしょうか。
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たとえ話をすると話が余計ややこしくなるので、僕は通常、積極的にはしないのですが、今回はここで外国語の「4技能」と比較してみましょう。
「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能は、外国語の学習者が未就学児であろうと、中学生であろうと、大学生であろうと必要な力です。一般的に、外国語の評価の枠組みは「4技能」が基本ですよね。でも、今回の中学校学習指導要領「第2章第9節
外国語」では、目標が3点、(1)(2)(3)と箇条書きにされています。これをもって、中学校の外国語では「聞く」「話す」「読む」「書く」は問われず、「(1)
知識及び技能」「(2) 思考力、判断力、表現力等」「(3) 学びに向かう力、人間性等」だけに集約されるのか、と言えばそうではありません。
もちろん、「外国語」は「教科」ですから、中学校における目標-実践-評価は上記の(1)(2)(3)に基づきます。けれども、当該「外国語」の目標(1)は、「外国語の音声や語彙、表現、文法、言語の働きなどを理解するとともに、これらの知識を、聞くこと、読むこと、話すこと、書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身に付けるようにする。」とされており、「4技能」の重要性が明示されています。また、「各言語の目標及び内容等」において示される「英語」の「目標」では、「聞くこと、読むこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]、書くことの五つの領域別に設定する目標」という枠組みが示され、ちゃんと「4技能」との整合性は確保されているわけです。(他教科等との整合性を保ちつつ、学習者の年齢や在籍機関を問わない「4技能」とも整合性を保持するという“神業”のような作業をなさった関係者の皆様のご苦労は相当なものだったろうと推察します。)
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今回も話があちこちに飛んでしまい、読みにくくなってしまいましたが、キャリア教育において「基礎的・汎用的能力」が使えなくなる、という事態は全く想定されないことについてお話をしました。
「よもやま話」も20回を超えているわけですから、もう少し洗練されてきてもよさそうなものですが、どうもうまくいきません。こういうのを、中高年の開き直りと言うのでしょうね。開き直り、という言葉には「ふてぶてしい」印象が伴いますが、自分自身がそうなってしまう現実に直面し、開き直らざるを得ない悲しさのほうが勝っているのだなぁと実感した次第です。
こういう気づきを人生の機微と言えば言えそうな気もします。でも、すっと受け入れるのには、もう少し時間がかかりそうな感じです。加齢にうろたえず、年齢相応の落ち着きと慎ましさが身につくのはいつになるのでしょうか…。
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