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キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第32話 テレビドラマが映し出すもの(2018年1月21日)

  •  遅まきながら、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

     皆様は、大晦日の「紅白歌合戦」をご覧になりましたか? 僕は家族の白い目をよそに年越しそばをアテにしながら大酒を飲み、前後不覚のまま一眠りし、その後、23時頃からラストまでを見ました。とは言うものの、僕自身が見たかったのは「紅白」ではなく、その後の「行く年来る年」。長年の習慣なので、これを見ないと正月気分になれないのです。まさに「パブロフの犬」ですね。神社仏閣のリレー中継こそが、僕にとっての年明けそのもの。ああ、年が改まったんだなぁと実感するひとときです。(遙か昔、アメリカに留学していたときに迎えた年明けから数日間、はじめてホームシックらしいホームシックにかかったことを思い出します。その理由を今思い返せば、おせち料理でも、餅でもなく、「行く年来る年」だったと実感します。もし、あの頃、NHKの国際放送やネット配信があったら、ホームシックとは無縁の生活だったかもしれません。もちろん「たら・れば」の話です。)

     で、その「紅白歌合戦」ですが、毎年、視聴率の低迷が話題になりますね。「低迷」といっても、40%近い数値をたたき出すのですから、すごい番組だなぁなんて思っていたのですが、1970年代まではその視聴率は70%を軽く超えていたのです!(ここでは、日本文化研究ブログ(ジャパン カルチャー ラボ)による紅白歌合戦の歴代視聴率の推移を参照しました。)まさに、国民的番組だったのですね。確かにそれに比べれば「低迷」なのかもしれません。

     でも、インターネットの普及によって、音楽CDの売り上げが激減し、映画などのDVDやブルーレイディスクの販売にも大きな影響が見られる今日、「紅白歌合戦」だけが視聴率の数値を変容させないとしたら、そっちの方がむしろ変です。こうして、毎年、出場歌手決定の動向が注目を浴び、視聴率が話題になるだけで、「紅白歌合戦」は今でも国民的番組の地位にあると言わざるを得ません。

     …なーんて、ド素人のくせに、手垢のついたマスメディア評論まがいのようなことを長々と書いてしまいました。お恥ずかしい。この辺で切り上げて、今回のお題「テレビドラマが映し出すもの」に移ります。

     そんなこんなで、僕は「紅白歌合戦」のかつての視聴率に度肝を抜かれたわけですが、つい先日、ある方から「最近のテレビドラマは、職業人の気概に正面から光を当てる傾向があると思いませんか?」という指摘を受けました。僕は普段、深夜の通販番組ぐらいしかテレビを見ないので、「あー、そうなんですねぇ」なんて間の抜けた返事しかできなかったのですが、テレビつながりのセレンディピティに乗じて、ネット検索をしてみました。今回はその結果のご報告です。

     はじめに参照したのは、「年代流行」というサイトの「歴代ドラマ視聴率ランキング」。ここでは、「1977年以降に放送された民放テレビ局の連続ドラマの一話ごとの最高視聴率のランキング」が一覧として整理されています。ここに掲げられる93番組のデータを年代順に並べ直し、概観してみると、時代の流れが実感できました。

     まず特徴的なのは、1980年代前半まで、時代劇と刑事物に強い支持が集まっていたこと。「Gメン75」「大岡越前」「水戸黄門」「太陽にほえろ」「江戸を斬る」「熱中時代・刑事編」「新五捕物帳」「特捜最前線」「必殺仕事人」など、僕にも「ああ、アレね」と分かる懐かしい番組名が並びます。勧善懲悪というべきか、予定調和というべきかは迷いますが、安心して見ていられる番組たちですね。また、「熱中時代」「3年B組金八先生 」「積木くずし」「不良少女とよばれて」など学園ドラマや非行を扱ったタイトルも目にとまります。深刻な状況を経つつも、立ち直っていく家族や若者の姿が描かれる傾向が見て取れます。

     次に目立つのは、1980年代後半から90年代にかけて続いた、いわゆる“恋愛トレンディードラマ”の黄金期です。「男女7人夏物語」「男女7人秋物語」「愛しあってるかい」「すてきな片想い」「101回目のプロポーズ」「東京ラブストーリー」…あまりに多く途中省略します…「愛していると言ってくれ」「ロングバケーション」などなど、圧倒的なボリューム感をもって恋愛物が高視聴率を稼ぎました。バブル経済がはじけ、世の中に閉塞感が蔓延する中で、人々はドラマにキラキラ感を求めたのかもしれません。

     第三の特徴は、2010年以降、最高視聴率ランキングに掲載される番組が激減することです。ランクインしているのは、2011年の「家政婦のミタ」「JIN-仁-」、2013年の「半沢直樹」「ドクターX」の4番組のみ。何しろ数が少ないのでここから明確な傾向を読み取ることは難しそうです。

     そこで、次に参照したのが「Audience Rating TV-ドラマ視聴率-」というサイトです。2003年以降の連続テレビドラマや大河ドラマの視聴率等が細かに検索でき、サイト作成者の「テレビ愛」と几帳面さの両方が実感できます。今回は、ここに掲載される情報を使わせていただき、2003年から2017年までのテレビドラマの最高視聴率及び平均視聴率の「各年ベスト3」を整理してみました。最高視聴率と平均視聴率のランキングに差異がある場合には、双方のベスト3を掲載しています。(そのため、4番組が掲載される年があります。)

     まずは、その一覧をご覧ください。

    番組名 最高視聴率(%) 平均視聴率(%)
    2003 GOOD LUCK!! 37.6 30.4
    2003 白い巨塔 第一部 22.8 21.1
    2003 Dr.コトー診療所 22.3 18.9
    2004 白い巨塔 第二部 32.1 26.2
    2004 プライド 28.8 25.2
    2004 僕と彼女と彼女の生きる道 27.1 20.8
    2004 ラストクリスマス 25.3 21.6
    2005 ごくせん 32.5 28.0
    2005 電車男 25.5 21.2
    2005 エンジン 25.3 22.6
    2006 西遊記 29.2 23.2
    2006 Dr.コトー診療所2006 25.9 22.4
    2006 マイ☆ボス マイ☆ヒーロー 23.2 19.1
    2007 華麗なる一族 30.4 24.4
    2007 花より男子2(リターンズ) 27.6 21.6
    2007 ハケンの品格 26.0 20.2
    2007 ガリレオ 24.7 21.9
    2008 CHANGE 27.4 22.1
    2008 ごくせん 26.4 22.8
    2008 ラスト・フレンズ 22.8 17.7
    2008 薔薇のない花屋 22.4 18.8
    2009 JIN -仁- 25.3 19.0
    2009 MR.BRAIN 24.8 20.5
    2009 BOSS 20.7 17.1
    2009 救命病棟24時 20.3 19.2
    2010 月の恋人 22.4 16.9
    2010 新参者 21.0 15.2
    2010 フリーター、家を買う。 19.2 17.1
    2010 臨場 18.6 17.6
    2011 家政婦のミタ 40.0 25.2
    2011 JIN -仁- 26.1 21.3
    2011 マルモのおきて 23.9 15.8
    2011 南極大陸 22.2 18.0
    2012 ドクターX 24.4 19.1
    2012 PRICELESS 20.1 17.7
    2012 ATARU 19.9 15.6
    2012 鍵のかかった部屋 18.3 16.0
    2013 半沢直樹 42.2 28.7
    2013 ドクターX 26.9 23.0
    2013 ガリレオ 22.6 19.9
    2014 ドクターX 27.4 22.9
    2014 HERO 26.5 21.3
    2014 S -最後の警官- 18.9 14.2
    2014 花咲舞が黙ってない 18.3 16.0
    2015 下町ロケット 22.3 18.5
    2015 アイムホーム 19.0 14.8
    2015 天皇の料理番 17.7 14.9
    2016 ドクターX 24.3 21.5
    2016 逃げるは恥だが役に立つ 20.8 14.6
    2016 99.9 19.1 17.2
    2017 ドクターX 25.3 20.9
    2017 陸王 20.5 16.0
    2017 緊急取調室 17.9 14.1
    2017 コード・ブルー 3rd 16.4 14.8


     この表を作ってから、僕は重大な障壁にはたと気づきました。僕自身、番組名から内容が全く推察できないのです。正直に告白しますと、昔、放送していた番組のリメイクに違いない「白い巨塔」の他には、「家政婦のミタ」「半沢直樹」「ドクターX」しか番組名を見たことも聞いたこともありません。もちろん「逃げるは恥だが役に立つ」のダンスは知っていますが、ドラマの内容は分かりません。…でも、大丈夫。こんな時、インターネットというのが威力を発揮するのですね。全部、番組名から検索できました。

     その結果分かったこと。それは、まず、1990年代頃まで見られた特定のジャンルへの著しい集中がない、ということです。次に、人生をかけて働くプロの姿を物語のモチーフにしているドラマが少なくないことも特徴的でした。恋愛ドラマの場の設定、コメディーの場の設定としての職場ではなく、職業人の生き様に迫るストーリーも他のドラマと肩を並べて視聴者の関心を集めていることが分かります。僕でも番組名を知っていた「半沢直樹」や「ドクターX」もそうですが、「Dr.コトー診療所」「ハケンの品格」「JIN-仁-」「BOSS」「救命病棟24時」「下町ロケット」「天皇の料理番」「コード・ブルー」など、実際にドラマを見たら自分もハマるだろうなと思われる番組がたくさんありました。中でも医療現場に光をあてる番組が多いのは、医療技術の高度化とそれゆえに生じる医療ミスや生命倫理の問題に関心が高まっていることに加え、東日本大震災以降、人の命のはかなさと尊さに私たちの気持ちが惹かれるからかもしれませんね。

     今回、僕個人にとって必ずしも身近ではないテレビドラマの世界にちょっと近寄ってみて、いろんなことを感じました。

     キャリア教育の推進と充実を願ってやまない立場から、まず、懸命に働くプロの姿を描こうとするドラマが増えたことを素直にうれしい、と思いました。こういったドラマの中心的な視聴者の一角を占める中学生や高校生に対して、自らの将来を考える契機を提供してくれるはずです。

     次に、最高視聴率を獲得した番組であっても、1990年代までの視聴率には届かない、という現実の意味を考えさせられました。90年代までは最高視聴率が30%を超える番組がたくさんありましたが、2000年代、とりわけ2010年以降その数は激減します。上掲の表に掲載される高視聴率ドラマに範囲を限っても、2010年以降の最高視聴率平均は22.8%にしかなりません。多くの家庭で同じ番組を見て、学校の休み時間はその番組の話でもちきり、という状況ではなくなってきているのです。

     ちなみに、「Audience Rating TV-ドラマ視聴率-」に掲載される2010年放送の全ドラマ57作品の平均視聴率は10.8%ですが、2017年放送の全52作品の平均視聴率は8.7%に下がっています。各テレビ局は、視聴者の関心の多様化に対応しようと、様々なジャンルの作品を放送してはいるものの、大ヒットが生まれにくくなる傾向には一層拍車がかかってきているようです。個々人の興味や関心をオンディマンドで、しかも、ニッチな領域まで満たしてくれるインターネットはテレビの在り方や社会的な意義まで変容を迫っているように感じられました。

     学校における子供同士のインフォーマルな会話や、それを通した個々の感性の違いの気づきの機会の提供に、かつてテレビドラマは大きな役割を果たしていましたが、今のテレビにそれを期待するのは難しいですね。また、家族団らんの場では常にテレビを囲んでいる(あるいは、居間のテレビが家族団らんの契機となりそれを醸成・維持している)、という僕たち世代が思い浮かべがちなイメージが旧態依然のステレオタイプに過ぎないことについても再確認が必要なようです。

     さらに、僕たちの世代までは「テレビ局に就職する」といえば、疑いなく花形の職を得たことを意味していましたが、今は必ずしもそうとは言い切れない状況です。でも、中学生や高校生の中には、自分たちの近くで起きている大きな変化に気づかないままでいるケースも意外に少なくないのかもしれません。まして、彼らの親の世代は……。

     テレビドラマの影響力の急速な変化は、現在の社会の多様かつ複雑な変容の一断面に過ぎないわけですが、こういった社会的変容を正しく捉えるための力を育成することもキャリア教育の重要な役割だなぁと改めて痛感しました。

     それにしても、こうしてテレビドラマの視聴率が大きく低下してきている現実を視野に収めた上で、「紅白歌合戦」の視聴率に改めて目を向けると、やっぱり只者ではない人気ぶりであることが実感できますね。今年こそは最初から通して見てみようかな、なんて思った次第です。(かなり高い確率で飲んだくれ、実現しないと予測しますが…。)

     今回は、大晦日から続いた「テレビつながり」のセレンディピティの流れの中で感じた諸々をとりとめもなく書いてしまいました。文字通りの「よもやま話」をお許しください。


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藤田晃之

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