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キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第37話 「キャリア教育の要」って、結局、何をどうするの?(2018年6月2日)

  •  今回のお題は、「キャリア教育の要」です。

     先日、ある県で実施された「特別活動を要としたキャリア教育推進事業」の連絡協議会にお邪魔してきました。県教委による指定を受けた研究推進校(小学校・中学校数校ずつ)と当該校を設置する市町村教育委員会や教育事務所から、それぞれ中核的な役割を担う先生方が参加される協議会でした。

     この協議会では、まず教育事務所単位でのグループに分かれ、これまでの実践の経緯と今後の課題について協議し、その結果を模造紙と付箋を使って整理して可視化しました。その後、僕から推進の方向性とその要点などについてお話をさせていただき、それを受けて再びグループに分かれ、今後の取組の具体的な計画について意見交換するという流れで進みました。そして最後に、各グループの代表者から意見交換の概要報告がなされてから解散、という段取りです。

     参加された先生方の真摯な姿勢が印象的なとても充実した会……だったのですが、解散前になされた意見交換の概要報告において、ほとんどのグループから異口同音に次のような指摘がなされたことは、僕にとってちょっとした驚きでした。

    ○特別活動「要」とするという基本的事項について、根本的な誤解をしていました。参加するまで、特別活動を中心にして実践するものだと思って計画を立ててきましたが、計画そのものを大幅修正する必要があることに気づきました。

    ○まず、目の前の子供たちに身につけさせたい力を具体的に設定しなくては、その資質・能力を身につけさせるチャンスも見いだせないし、小中連携も形式的なものになってしまうという点を再認識しました。

     今回の協議会が、こういった本質的な事項を再確認する契機になったことは極めて重要ですし、県内各地から集まっていただいた意義もあったなぁと思うと同時に、研究指定を受けるほどキャリア教育に対して積極的な学校であっても誤解や認識の不足が共有されているということは、大多数の一般的な学校では「まだまだ先は長い」というのが実態なのだろうと思いました。

     そして、ほぼ同時に「ちょっと待てよ。『よもやま話』で『特別活動を要とするキャリア教育』について書いた気もするなぁ。だれも読んでくれてないんだなぁ。ま、マニアックなサイトだから仕方ないか。」と少し凹んだことを告白します。

     念のため、解散後にこれまでの「よもやま話」のタイトルを確認してみた結果、確かに「第20話 キャリア教育の『要』としての特別活動(2017年4月23日)」がありました。が……、長い。あまりに長すぎる。しかも、戦後の経緯から書き起こしているので、いつまでたっても「今知りたいこと」が出てこない!

     自分の悪い書き癖が全面的に表に立ってしまっていることを猛省した次第です。いくら「よもやま話」とはいえ、自分しか読まない日記帳でも、自分のための備忘録でもないんだから、もうちょっとちゃんとした文章にしようよ俺。

     第20話においても、間違った情報を垂れ流しているわけではないことが唯一の救いですが、今回は「仕切り直し」をして、コンパクトに、分かりやすく、要点を精選してまとめます。(「いや、もうすでに、この話だけで十分長いんだけど……。」というお叱りが聞こえてくる感じですが、もう書いてしまったことに免じてお許しを。)

     まずは、新しい学習指導要領の総則を確認しましょう。

    児童/生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。(小:第4の1(3)、中:第4の1(3)、高:第5款の1(3) 太字と下線は引用者)

     ここで重要となるのは、キャリア教育は「特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて」実践されるものとされ、それが小学校・中学校・高等学校の共通事項となっている点です。

     次に、この総則規定に関して、文部科学省自身が次のように解説していることを確認することが重要です。ここでは、すでに公開・公刊されている「学習指導要領解説 総則編」のうち、中学校版の記述を引用します。

     キャリア教育を効果的に展開していくためには,特別活動の学級活動を要としながら,総合的な学習の時間や学校行事,道徳科や各教科における学習,個別指導としての教育相談等の機会を生かしつつ,学校の教育活動全体を通じて必要な資質・能力の育成を図っていく取組が重要になる。

     また,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら見通しをもったり,振り返ったりする機会を設けるなど主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進めることがキャリア教育の視点からも求められる。

     さらに,本改訂では特別活動の学級活動の内容に(3)一人一人のキャリア形成と自己実現を設けている。その実施に際しては次の2点に留意することが重要である。

     一つ目は,総則において,特別活動が学校教育全体で行うキャリア教育の要としての役割を担うことを位置付けた趣旨を踏まえることである。キャリア教育の要としての役割を担うこととは,キャリア教育が学校教育全体を通して行うものであるという前提のもと,これからの学びや人間としての生き方を見通し,これまでの活動を振り返るなど,教育活動全体の取組を自己の将来や社会づくりにつなげていくための役割を果たすことである。この点に留意して学級活動の指導にあたることが重要である。

     二つ目は,学級活動の(3)の内容は,キャリア教育の視点からの小・中・高等学校のつながりが明確になるよう整理したということである。ここで扱う内容については,将来に向けた自己実現に関わるものであり,一人一人の主体的な意思決定を大切にする活動である。小学校から高等学校へのつながりを考慮しながら,中学校段階として適切なものを内容として設定している。キャリア教育は,教育活動全体の中で基礎的・汎用的能力を育むものであることから職場体験活動などの固定的な活動だけに終わらないようにすることが大切である。(文部科学省(2017)『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』p.100 太字と下線は引用者)


     ここでのポイントは、先に引用した総則規定における「特別活動を要としつつ」の部分は、「特別活動のうちの学級活動、とりわけ、今回新しく設けられた『(3)一人一人のキャリア形成と自己実現』を要としつつ」と解釈してください、と指摘されているという点です。

     新しい学習指導要領が求める「特別活動を要としたキャリア教育」における「特別活動」とは、特別活動全体を指すものではなく、小・中学校では学級活動、高等学校ではホームルーム活動の「(3)一人一人のキャリア形成と自己実現」を意味するのです。

     そして、この点と同じくらい重要なのは、「要(かなめ)」という言葉の意味です。「要」は、そもそも「扇の骨を留めるのに用いる釘。また、扇の骨を留める場所。」(大辞林)、「扇の骨をとじ合わせるために、その末端に近い部分に穴をあけてはめ込む釘。」(デジタル大辞泉)を意味する言葉です。まずは「扇面と骨」があって、それがバラバラにならないようにつなぎ止めるのが「要」の役割です。「要」だけの扇は存在しませんし、無理にそういった奇妙な扇を作ったところで使い道はありません。

     だからこそ、上に引用した「学習指導要領解説 総則編」では、「キャリア教育を効果的に展開していくためには、特別活動の学級活動(のうち、とりわけ(3))を要としながら、総合的な学習の時間や学校行事、道徳科や各教科における学習、個別指導としての教育相談等の機会を生かしつつ、学校の教育活動全体を通じて必要な資質・能力の育成を図っていく取組が重要になる。」と指摘しているわけです。

     では、その「要」となる学級活動・ホームルーム活動の(3)の規定を、新しい学習指導要領から引用してみましょう。

    小学校・学級活動
    (3)一人一人のキャリア形成と自己実現
     ア 現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度の形成
     イ 社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解
     ウ 主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用

    中学校・学級活動
    (3)一人一人のキャリア形成と自己実現
     ア 社会生活、職業生活との接続を踏まえた主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用
     イ 社会参画意識の醸成や勤労観・職業観の形成
     ウ 主体的な進路の選択と将来設計

    高等学校・ホームルーム活動
    (3)一人一人のキャリア形成と自己実現
     ア 学校生活と社会的・職業的自立の意義の理解
     イ 主体的な学習態度の確立と学校図書館等の活用
     ウ 社会参画意識の醸成や勤労観・職業観の形成
     エ 主体的な進路の選択決定と将来設計

     児童生徒の発達の段階に対応して、学級活動・ホームルーム活動(3)を構成する項目は異なっています。けれども、すべての学校段階を通じて、この「(3)」が「今」と「将来」をつなぐ重要な役割を担っている点は明らかです。また、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領が共通して、学級活動・ホームルーム活動の「内容の取扱い」において、次のように定めている点は見落とされるべきではありません。

    (3)の指導に当たっては,学校,家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て,学んだことを振り返りながら,新たな学習や生活への意欲につなげたり,将来の生き方を考えたりする活動を行うこと。その際,児童/生徒が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること。

     学級活動・ホームルーム活動(3)においては、学校における様々な学びや生活にとどまらず、家庭や地域における学びや生活を含めて、「見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の生き方を考えたりする活動を行う」ことが求められます。まさに、キャリア教育の「要」であることがここに示されていると言えるでしょう。また、学級活動・ホームルーム活動(3)では、このような一人一人のキャリア形成に関わる重要な学びの経験を「記録し蓄積する教材」、すなわち「キャリア・パスポート(仮称)」の活用が期待されています。この意味からも、学級活動・ホームルーム活動(3)はキャリア教育の「要」となるのです。

     では、学校教育全体を通じたキャリア教育とは、どうあるべきなのでしょうか。……なーんて書いていると、またもや冗長になってしまいますので、今回はここで切り上げますね。

     もしお時間が許せば、教科を通したキャリア教育のあり方については「第2話」「第36話」、キャリア・パスポート(仮称)については「第26話」「第35話」をそれぞれご高覧下さい。

     沖縄・九州・四国ではすでに梅雨に入っていますが、他の地域でももうじき梅雨入りのタイミングですね。鬱陶しい天候が続くこととなりますが、皆様、体調を崩されませんように。


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藤田晃之

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