先日、新しい元号「令和」が発表されました。来月からは令和元年。自分では全く自覚しないうちに馬齢を重ね、昭和・平成・令和の3時代を生きることになりそうです。
今から50年以上も前になりますが、「おばあちゃんが若かった頃、男の人はちょんまげだったの?」と尋ねた僕に対して、微笑みながら「違うよ」と答えてくれた祖母の姿が思い出されます。これからこの世に生を受ける令和世代からみれば、僕のような昭和生まれは爺さん以外の何者でもないのでしょうね。あのときの祖母も、幼い孫の無知と悪意のない素朴な問いが浮き彫りにした明治と昭和との時の隔たりに直面し、微笑むしかなかったのだろうと想像します。
無論、老いゆく我が身の現実はどうしようもありません。僕たちがなし得ることは、与えられた生を精一杯生き抜くことのみですから、せめて前を向いて生きていこうと改めて思いました(否、正確には、そう自分に言い聞かせています)。
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さて、今回のお題ですが、「『キャリア・パスポート』例示資料等の発出によせて」としました。ちょうど1週間前の3月29日、文部科学省初等中等教育局児童生徒課から「『キャリア・パスポート』例示資料等について」という事務連絡が、都道府県教育委員会などに向けて発出されました。この事務連絡は、当該例示資料等について、「各都道府県教育委員会におかれては、域内の市町村教育委員会に対して、各都道府県私立学校事務担当課(中略)におかれては、所轄の学校及び学校法人等に対して、速やかに御周知いただくようお願いします。」と明示していますから、すでにご覧になった先生方も少なくないと推察します。
なので、今回のよもやま話は、屋上屋を架すに等しい内容になってしまうのですが、学校教育に直接携わっていらっしゃらない皆様や学生・院生の皆さんが、「3月29日に出された『「キャリア・パスポート」の例示資料及び指導上の留意事項等』という重要資料があるんだな」と認識していただくきっかけになれば幸いです。(そのうち、当該資料等は文部科学省のウェブサイトにも掲載されるのではないかなぁと推察しています。)
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では早速、今回発出された「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」に目を向けましょう。はじめに注目すべきは、これまで「キャリア・パスポート(仮称)」とされていた名称が、次の通り確定したことです。
小・中・高等学校及び特別支援学校における学習指導要領特別活動第2〔学級活動・ホームルーム活動〕の3内容の取扱い(2)にある「(前略)児童(生徒)が活動を記録し蓄積する教材等(後略)」を「キャリア・パスポート」と呼ぶ。ただし、都道府県や設置者、各校において独自の名称で呼ぶことは可能とする。なお、特別支援学校における特別活動については、小・中学校及び高等学校に準ずることとしていることに留意する必要がある。
このような名称の扱いについては、「総合的な学習(探究)の時間」と同じであると考えてしまって良さそうです。全国共通の名称は定めるけれども、各学校において独自名称を用いることは妨げないというわけです。いずれにしても、3月29日以降、「キャリア・パスポート(仮称)」から“仮称”が外れ、「キャリア・パスポート」とされたことはとても重要ですね。
次に、「キャリア・パスポート」の目的と定義が次のように定められたことも特筆に値します。
目的
小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。
教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの。
定義
「キャリア・パスポート」とは、児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。
なお、その記述や自己評価の指導にあたっては、教師が対話的に関わり、児童生徒一人一人の目標修正などの改善を支援し、個性を伸ばす指導へとつなげながら、学校、家庭及び地域における学びを自己のキャリア形成に生かそうとする態度を養うよう努めなければならない。
これらの点については既に、よもやま話・第26話「『キャリア・パスポート』がやってくる!?(2017年9月10日)」、第35話「『教員が対話的に関わること』の意味(2018年4月11日)」において駄文を書いていますので、ここで繰り返すことはやめておきます。2016年の中教審答申や新しい学習指導要領とその解説において示されてきたことが、今回改めて簡潔に整理され、再確認されたと言えそうですね。
さらに、この「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」は、その内容と指導上の留意点などについても、具体的な方針を明らかにしています。
ここで何より重要なことは、「キャリア・パスポート」の内容について、次のような方針が明確に打ち出されていることです。この点の見落としは是非とも避ける必要があります。
別添に様式例を示したが、これはあくまでも例示である。学習指導要領解説特別活動編「(前略)こうした教材については、小学校から高等学校卒業(特別支援学校を含む。以下同じ。)まで、その後の進路も含め、国や都道府県教育委員会等が提供する各種資料等を活用しつつ、各地域・各学校における実態に応じ、学校間で連携しながら、柔軟な工夫を行うことが期待される。」のとおり、都道府県教育委員会等、各地域・各学校で柔軟にカスタマイズされることを前提とする。
在籍する子供たちの実態は学校ごとに異なりますし、地域の実情も様々です。当然、キャリア教育を通して身に付けさせたい力も地域や学校によって異なることは言うまでもありません。また、学校行事や総合的な学習(探究)の時間などの在り方についても学校独自に工夫がなされています。さらに高校では、学科等ごとに大きく異なる教育活動が展開されていることは自明です。これらの違いを等閑視して様式例を躊躇なく踏襲するとしたら、それは、空虚かつ硬直した全国的「金太郎飴」状態に直結し、誰にとっても「お荷物」でしかない「キャリア・パスポート」になってしまうでしょう。
無論、「キャリア・パスポート」は、小学校・中学校・高等学校の12年間、いわば「持ち上がり方式」で活用されるものです。ですから、学校ごとに全くのてんでんばらばらな内容では、上級学校での活用に支障がでてしまいます。そのため、都道府県教育員会や市町村教育委員会の絶妙な「さじ加減」に基づく方針や各校に対する指導助言は不可欠でしょう。「キャリア・パスポート」の成否を左右する要因の一つになると言っても過言ではないと考えます。また、義務教育段階では、中学校区単位での情報交換の機会などを設定することも極めて重要ですね。学校の独自性と地域ごとの共通性のバランスをどのようにとっていくかについては、今後数年かけて、様々な地域での取組を相互に学びあうことなどを通して、徐々に「うまいやり方」が見出されていくのではないかと思います。今回示された「様式例」は、まさにそのための「たたき台」として活用されるべきものと言えそうです。
最後に、今回取りまとめられた「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」が示した、内容上の留意点(9点)と指導上及び管理上の留意点(9点)の中から、とりわけ重要と思われるものを以下に抄出しておきましょう。(あくまでも、僕の個人的な感覚をもとにした抄出ですので、機会を見つけて当該文書の原文をお読みになることをお薦めいたします。)
内容上の留意点
○ 児童生徒自らが記録し、学期、学年、入学から卒業までの学習を見通し、振り返るとともに、将来への展望を図ることができるものとする▶ 児童生徒が記録する日常のワークシートや日記、手帳や作文等は、「キャリア・パスポート」を作成する上での貴重な基礎資料となるが、それをそのまま蓄積することは不可能かつ効果的ではなく、基礎資料を基に学年もしくは入学から卒業等の中・長期的な振り返りと見通しができる内容とすること○ 学校生活全体及び家庭、地域における学びを含む内容とする
○ 学年、校種を越えて持ち上がることができるものとする▶ 小学校入学から高等学校卒業までの記録を蓄積する前提の内容とすること
▶ 各シートはA4判(両面使用可)に統一し、各学年での蓄積は数ページ(5枚以内)とすること○ 大人(家族や教師、地域住民等)が対話的に関わることができるものとすること
○ 詳しい説明がなくても児童生徒が記述できるものとすること
指導上及び管理上の留意点
○ キャリア教育は学校教育活動全体で取り組むことを前提に、「キャリア・パスポート」やその基礎資料となるものの記録や蓄積が、学級活動・ホームルーム活動に偏らないように留意すること▶ 学級活動・ホームルーム活動以外の教科・科目や学校行事、帰りの会やショートホームルーム等での記録も十分に考えられる○ 学級活動・ホームルーム活動で「キャリア・パスポート」を取り扱う場合には、学級活動・ホームルーム活動の目標や内容に即したものとなるようにすること
▶ 記録の活動のみに留まることなく、記録を用いて話し合い、意思決定を行うなどの学習過程を重視すること○ 「キャリア・パスポート」は、学習活動であることを踏まえ、日常の活動記録やワークシートなどの教材と同様に指導上の配慮を行うこと
○ 「キャリア・パスポート」を用いて、大人(家族や教師、地域住民等)が対話的に関わること▶ 記録を活用してカウンセリングを行うなど、児童生徒理解や一人一人のキャリア形成に努めること
▶ 学級活動・ホームルーム活動の時間の中で個別の面接・面談を実施することは適切でなく、「キャリア・パスポート」を活用した場合においても同様と考えること○ 個人情報を含むことが想定されるため「キャリア・パスポート」の管理は、原則、学校で行うものとすること
○ 学年、校種を越えて引き継ぎ指導に活用すること
○ 学年間の引き継ぎは、原則、教師間で行うこと
○ 校種間の引き継ぎは、原則、児童生徒を通じて行うこと▶ ただし、小学校、中学校間においては指導要録の写しなどと同封して送付できる場合は学校間で引き継ぐことも考えられる
▶ 校種間の引き継ぎに当たっては、入学式前後の早い段階での提出を求め、児童理解、生徒理解に活用すること
これ以上はない、というくらいに平明に示されているので、何も付言すべきことはないのですが、念には念を入れて再確認するとすれば、
⚫収録するのは年間で最大5枚(両面使用可)くらいのシートにとどめておくこと
⚫教科・科目のみ、学校行事等のみの振り返りとならないよう記載すべき内容のバランスに配慮すること
⚫学級活動・ホームルーム活動においては、ひたすら書き込む作業だけに終始しないようにすること
などは、極めて重要度が高いと言えそうです。
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今回のよもやま話では、別添の様式例(例示資料)を引用して紹介することまではできませんが、児童生徒用の様式例に加えて、例示されるシートごとに指導上の留意点やヒントを細やかに示した指導者用の様式例も提示されていること、及び、全ての様式例がPDF版とWORD版の2種類準備されていることは特筆されて良いでしょう。言うまでもなく、WORD版の提示は「各学校等においてカスタマイズしてね」という文部科学省からのメッセージに他なりません。
今回発出された「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」の最後には、次のように書かれています。
本資料を参考に、都道府県教育委員会等、各地域・各学校で柔軟にカスタマイズし、2020年4月より、すべての小学校、中学校、高等学校において実施することとする。ただし、準備が整っていたり、既存の取組で代替できたりする場合は平成31年4月より先行実施できるものとする。なお、先行実施に当たっては都道府県等や設置者一律でなくとも各学校の判断で行うことができることとする。
さて、これから問われるのは、これらの「たたき台」をどのように使いこなしていくか、ですね。全国一斉実施となる2020(令和2)年の4月以降はもちろん、それ以前の先行実施及び準備期間においても、全国各地から「うちでは、こんな工夫をしているよ」という情報発信が数多くなされることを心待ちにしています。
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