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キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第51話 PISA2018の結果第一報によせて(2019年12月3日)

  •  またもやご無沙汰が続いてしまい、ずっと気になりつつも更新のための時間が取れずに鬱々としておりました。けれども、本日、世界同時に公開されたPISA2018の分析結果第一報を読んだところ、何としても今日中にお伝えしなくてはならないことに遭遇してしまい、取るものも取りあえずキーボードを叩いています。文面が全く整いませんことをお許しください。

     PISA2018における日本の高校1年生の成績等については、すでに、国立教育政策研究所のウェブサイトにかなり詳細な「ポイント」や「要約」等が掲載されていますので、そちらをまずご覧下さい。
    http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html

     おそらく、明日(12月4日)の朝刊各紙では「読解力低下」とセンセーショナルに報じられる可能性がありますが、日本の高校1年生の「学力」には、前回のPISA2015との比較において「ガクッと低下した」と断定できる部分はどこにも確認できません。全般的には、世界に胸を張れる成績であったと言えるでしょう。

     けれども、前回との比較では大きな差異として表れてはいないものの、注意深い分析を必要とする変容が複数の側面でおきていることについては把握しておいた方が良さそうです。この点については、OECDのウェブサイトに掲載される「国別概要報告(Country-specific overviews/ Country Note)」の日本語版が具体的に示していますので、こちらも是非ご高覧下さい。
    https://www.oecd.org/pisa/publications/PISA2018_CN_JPN_Japanese.pdf

     でも、これも結構な分量(10頁)ですので、パッと読んでサッと分かる、という具合にはいきませんね。なので、今回3冊一気に公開された英文報告書のうち「第1巻(PISA 2018 Results Volume I: What Students Know and Can Do)」305頁に掲載される「Snapshot of performance trends in Japan」を仮訳してご紹介します。

     日本の数学的リテラシーの平均得点は、2003年から2018年までの全期間にわたって安定しており、各回ごとに比較しても有意な上昇や低下は確認できません。けれども、この表層的な安定性は、習熟度別グループ内で生起している変容を見えにくくしてしまっています。中でも、高得点層の生徒の成績が低下傾向を示しているのです。(3年間で平均2.7ポイントの低下ですが、これ自体は統計上有意な変容ではありません。けれども、低得点層の成績の変容と比較した場合には、有意な低下傾向にあることは事実です。)

     読解力や科学的リテラシーの成績変容については、全体的な傾向を断定することはできませんが、これらの科目の各回の平均得点は明らかに安定性を欠いています。それぞれの領域が中核的に調査された年(読解力では2000年・2009年・2018年、科学的リテラシーでは2006年・2015年)のみを捉えた場合には結果の安定度は高いのですが、中核的対象ではない調査年を含めた場合、成績の上下が顕在化すると言えそうです(この傾向は2015年以前において特に顕著でした)。このような状況にあるとは言え、読解力についての最近(2009年または2015年以降)の変容においては、低下の傾向が明確に見て取れます。科学的リテラシーにおいても、2018年の平均得点は、2012年・2015年の得点を下回りました。

     数学リテラシーと同様に、科学的リテラシーにおいても高得点層の生徒の成績が、低得点層の生徒の成績よりも、低下の幅が大きい状況を示しています。一方、読解力においては、高得点層と低得点層の点数差の縮小は確認されていません。

    Mean mathematics performance in Japan remained stable over the 2003-2018 period, with no significant improvement or deterioration over any sub-period. However, this apparent stability hides distinct trends amongst students at different levels in the performance distribution. Amongst the highest-achieving students in particular, performance tended to decline (by 2.7 score points, on average, per 3-year period; although this trend is not significantly different from 0, it is significantly different from the trend observed amongst the lowest-achieving students).

    While no overall direction of change can be determined for reading and science trends in Japan, mean performance in these subjects has been characterised by significant instability. Results appeared more stable when considering only years in which each subject was assessed fully (2000, 2009 and 2018 for reading; 2006 and 2015 for science), perhaps indicating that some of this instability is related to the change in subject coverage in the “off” years (such changes were particularly marked in PISA cycles prior to 2015). Even so, in reading, the more recent trend (since 2009 or 2015) was clearly negative. In science too, mean performance in 2018 was below Japan’s performance in PISA 2012 and 2015.

    Similar to mathematics, trends amongst the highest-performing students in science tend to be more negative than amongst the lowest-performing students. This narrowing gap in performance is not observed in reading.


     ここでの指摘を総合すると、PISAが示す日本の高校1年生の学習到達度には「低下した」と大騒ぎするほどの変化はおきていないものの、成績上位層の伸び悩みなどの傾向が見られ、これ以上の顕在的な成績低下は食い止めた方が良さそうだ、とは言えそうですね。

     明日の新聞各紙では、このあたりのことをどのように報じるのでしょうか。いたずらに不安を煽るような記事が多くないことを祈ります。

     さてここからは、今回、皆さんにどうしてもお伝えしたかったことに移りましょう。

     まず、生徒質問調査のうち、「人生の意義」に関する3項目の質問((1)自分の人生には明確な意義や目的がある、(2)自分の人生に、満足のいく意義を見つけた、(3)自分の人生に意味を与えるのは何か、はっきり分かっている)についての日本の生徒の回答が、調査国・地域の中で最も否定的であったことが示されたことに注目します(Figure III. 11. 9)。しかも、語弊を恐れずに言ってしまえば、ぶっちぎりで否定的な傾向だったのです。個人的には、少なからぬ衝撃でした。

     さらに、「次のような気持ちなることはどのくらいありますか」という大きな問いの中で、「心配」に対して「時々(ある)」あるいは「いつも(ある)」を選択した生徒の割合が調査国・地域の中で中国本土4都市(北京・上海・江蘇・浙江)に次いで最も多く、「怖い」「悲しい」についての同様の回答がOECD加盟諸国中最も多かったことも気がかりな結果でした(Figure III. 12. 1)。

     感覚に関わる回答傾向には、いわゆる国民性・民族性なども影響しますので短絡的な解釈は慎むべきではあるものの、将来を過度に悲観的に捉える高校生に対してキャリア教育がすべきこと、できることは少なくないと確信します。(この点については、すでに「第29話」「第33話」でお話ししたことですので、ここで繰り返すことはやめておきますが、「今こそキャリア教育の出番!」と言えるのではないでしょうか。)

     そして、もう一つ。ああ、これが日本の姿だなぁと改めて感じたのは、キャリア教育などのキャリア形成支援プログラムを実施する専門職の配置状況です。日本の場合、キャリアカウンセラー等の専門職からキャリア形成支援を受けている生徒の割合が調査国・地域の中で最も少なく、OECD加盟諸国に限定した場合には日本の状況に近い国はどこにもないという実態が明らかとなりました(Figure II. 6. 6)。

     無論、日本の場合は、小学校から高校まで学級担任制・ホームルーム担任制が採用されていますし、日本の先生方は授業のみの実施者ではなく「教育を司る」ことを職務とする専門家ですので、欧米諸国のように何でも分業体制をとれば良いというような話にはならないのですが、今回改めて、日本の学校の先生はマルチタスクをこなすスーパーマン・スーパーウーマンなのだなぁと実感した次第です。

     他にも、今回の3冊の第一次報告書からは、様々な発見や気付きが得られました。これらについては、今後の一層詳しい報告書の公開などを機に改めてお話ししたいと思います。


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藤田晃之

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