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キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第53話 係活動・当番活動(2020年1月11日)

  •  遅まきながら、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
     本年も何卒よろしくお願いいたします。

     今回は、小学校にお勤めの先生方を例外として、大多数の大人の皆さんにとって“昔懐かし”の言葉に過ぎない「係活動」と「当番活動」に注目します。……あぁ、そう言えば、そんなヤツあったなぁとご自身の小学生時代を思い出された方もいらっしゃるかもしれません。

     では、ほんの一瞬、“遠い目”になって小学生の頃を振り返った皆様に質問です。
     係活動と当番活動の違いは何でしょうか?

     ……「えっ、そんなの思い出せないよ」と感じた皆様。ご安心下さい。大多数の方は思い出せません。

     大人になってしまうと、両者の違いどころか、それらの存在自体の記憶も虚ろになりがちな係活動と当番活動ですが、小学校におけるキャリア教育の実践において両者は重要な役割を担っています。今回は、そのあたりについてのよもやま話をお届けします。

     まずは、もったいぶらずに係活動と当番活動の違いを整理してしまいますね。

     小学校のそれぞれの学級内の仕事を児童が分担して遂行するという点は、係活動にも当番活動にも共通する特徴です。でもこの二つは、似て非なるもの。両者の違いは次のように整理されます。

    係活動:学級生活を共に楽しく豊かにするために創意工夫しながら児童が自主的、実践的に取り組む活動のことです。例えば、学級新聞係や誕生日係、レクリエーション係などが挙げられます。

    当番活動:学級の生活が円滑に運営されていくために必要な学級の仕事を児童全員で分担し、担当しなければならない活動のことです。多くの場合、教師の指導に基づきつつ、輪番制などによって全員が公平に交代して役割を担います。例えば、日直、給食当番、清掃当番などが挙げられます。

     語弊をおそれずに大雑把に言ってしまえば、日々の学級生活を円滑かつ効率的なものとするために学級の構成員として各自が「しなくてはならないこと」に取り組むのが当番活動。そのような当番活動の役割分担がなされ遂行されていることを前提に、より楽しく快適で豊かな学級生活を創造できるよう各自の興味・関心・特技などを活かしつつ自主的に「やりたいこと」に取り組むのが係活動です。(ちょっと大雑把すぎますが、両者の違いを際立たせるとしたらこんな感じに区分けできそうです。)

     このうち、係活動の決定やその活動の振り返りは、これまでも、ほとんど全ての小学校の学級活動における話し合いの議題として扱われてきました。新学習指導要領では、係活動・当番活動ともに、学級活動「(1)学級や学校における生活づくりへの参画」の「イ 学級内の組織づくりや役割の自覚」に位置づけられ、一見、これまでのあり方と大差ないようにも捉えられそうです。

     でも、新学習指導要領に基づく係活動や当番活動の指導がこれまでと同じで良い、というわけではありません。今回のよもやま話で焦点を絞りたいのはこの点です。

     今後の実践をより良いものにしていくためには、まず、これまでの特別活動に見られた“弱さ”を省みることが必要なようです。文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 特別活動編』は、これまでの特別活動には「各活動・学校行事において身に付けるべき資質・能力は何なのか、どのような学習過程を経ることにより資質・能力の向上につなげるのかということが必ずしも意識されないまま指導が行われてきたという実態も見られる」と指摘しています(p.6)。

     この指摘から、新学習指導要領に基づく特別活動の実践に当たっては、
      ①活動を通して育成する具体的な資質・能力を意識した指導
      ②活動がどのような学習過程を経て展開されるのかを意識した指導
    が不可欠であることが浮かびあがってきます。

     さらに、今回の改訂によってキャリア教育の「要」として設けられた学級活動「(3) 一人一人のキャリア形成と自己実現」において、「イ 社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解」が掲げられ、そこでは、「清掃などの当番活動や係活動等の自己の役割を自覚して協働することの意義を理解し、社会の一員として役割を果たすために必要となることについて主体的に考えて行動すること」と明示されたことも視野に収める必要があります。

     と言うことは、上記①・②に加えて
      ③学級活動(3)の「イ」の内容との関連を意識した指導
    の大切さも認識すべきであるということになりますね。

     以下、これら3点について、実践の基盤となるポイントを整理していきましょう。

    ①活動を通して育成する具体的な資質・能力を意識した指導
     係活動や当番活動に限りませんが、特別活動の一環として学校教育に深く根を下ろしてきた活動や行事などには、実施自体が所与の前提とされ、その目的やねらい、意義や必要性などが曖昧になってしまったまま継続されているものが少なくありません。例えば、運動会はその典型かもしれませんね。「○月の第○週には毎年恒例の運動会を実施する。○年生は例年ダンスと○メートル競走をやる。」こういったことが、多くの学校における“当たり前”になり、何のために実施するかについての議論が省略されたまま、つつがなく粛々とプログラムを進行させるための方策のみに終始した議論と指導がなされ、予定通り無事終わることがゴールになってしまっている学校は稀な存在ではなかったと言えそうです。運動会を通してどのような資質・能力を育成しようとしているのかよりもむしろ、参観している保護者や地域の方々に感銘を与える(児童のひたむきさ、一生懸命さ、かわいらしさ等々を強調し、見ている側を盛り上げる)ことを意識した出来映えの方に重きが置かれるケースもなかったわけではありません。

     学級生活を共に楽しく豊かにするために創意工夫しながら児童が取り組む係活動についても同様に、それを通して育成する資質・能力を重視してきたとは言い難い状況に陥っている学校が少なくないようです。例えば、係活動によって高める資質・能力を定める過程においては、 学級での日々の生活を方向付ける学級目標が重要な基盤を提供するはずなのですが、これまでは「キラキラ○年○組」のような抽象的・情緒的なスローガンが学級目標と呼ばれるケースがごく一般的に見られました。目標とは、それに基づく取組の成果についての検証・評価が可能であるものをさします。また、そのような検証や評価によって明らかになった課題等を踏まえて改善を図り、新たな取組に反映させる検証改善サイクル(PDCAサイクル)が成立するものでなくてはならないはずなのですが、そうなっていない学級目標を掲げるケースがむしろ多かったかもしれません。このような状況では、「学級生活を共に楽しく豊かにする」ためのアイディアを出し合って係活動を構想しようとしても、この学級にふさわしい係活動とは何かを話し合ったり、数多くの提案の優先順位を吟味したりする際の基盤が曖昧なままですので、発言力の強い児童の意見のみが通ってしまったり、その場の“ノリ”で物事が決まったりするような“残念な結果”に陥ってしまう状況が生じがちです。

    ②活動がどのような学習過程を経て展開されるのかを意識した指導
     学級活動「(1)学級や学校における生活づくりへの参画」においては、「問題の発見・確認」→「解決方法等の話合い」→「解決方法の決定」→「決めたことの実践」 →「振り返り」を児童が主体的に行えるようにするなど、自発的、自治的な活動が一層充実するよう指導することが求められます。このような学習過程については、文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 特別活動編』の45ページに図を伴って詳述されているので、ここで改めて説明することは割愛しますね。

     係活動についても、学級活動の時間に話し合いを通じて合意形成して決定したことですから、それを確実に実践するのみにとどまらず、その過程において、実践の成果や課題を振り返り、結果を分析し成長を実感したり、次の課題解決に生かしたりするなど、実践の継続や新たな課題の発見につなげるための「振り返り」が不可欠であることは言うまでもありません。

     けれども、これまでは、「しなくてはならないこと」に取り組む当番活動との違いに注目するあまり、「やりたいこと」が楽しくできたか否かに焦点を当てる「振り返り」にとどまるケースが少なくありませんでした。さらに、上記①として整理した状況(=ねらいや育成すべき資質・能力が具体的に示されないままの係活動)に陥っている場合には、自己評価や改善を支える大綱的な軸が得られないという根源的な問題も不可避的に付随するため、「振り返り」の形骸化は免れないと言えそうです。

     係活動は、係のメンバーがそれぞれ自主的に取り組むべきものですが、同時に、学級生活を楽しく豊かにするという側面において学級という社会に貢献する活動であることを常に意識することが必要です。“この学級で目指す生活の質の向上に貢献し得たか否か”という点を意識した振り返りの指導が強く求められます。

    ③学級活動(3)の「イ」の内容との関連を意識した指導
     学級活動「(1)学級や学校における生活づくりへの参画」の実践にあたっては、集団や社会に参画し様々な問題を主体的に解決しようとするという「社会参画」の視点が特に重要となります。このような活動は、社会に出た後は、職業生活の中心となる職場集団や、家庭生活を支える基盤となる家庭といった集団における活動につながってくる性格を持つと言えるでしょう。集団の中での自己を捉えつつ合意形成を図り、実践し、振り返り、改善を図ることの重要性を認識したいものです。

     とりわけ、学級活動「(3) 一人一人のキャリア形成と自己実現」の「イ 社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解」において、「清掃などの当番活動や係活動等の自己の役割を自覚して協働することの意義を理解し、社会の一員として役割を果たすために必要となることについて主体的に考えて行動すること」と明示されているのですから、学級活動(1)の「イ 学級内の組織づくりや役割の自覚」において、係活動についての話し合い活動を指導する際にも、働くことの大切さや意義、学級生活の向上に寄与することの重要性を常に意識することが必要でしょう。

     つまり、係活動も当番活動も共通して、それらを通して身に付けるべき資質・能力と、学級活動(1)にふさわしい学習過程を意識しつつ指導し、一人一人の児童が自己の役割を自覚して協働することの意義を理解し、社会の一員として役割を果たすために必要となることについて主体的に考えて行動できるようにすることが重要なのです。特に係活動においては、児童が「やりたいこと」を楽しく実践できていれば良しとする見方が根強く残っていることから、その軌道修正が急務であると言えそうです。

     当番活動・係活動はともに、社会に出た後の職場や家庭における多様な活動につながる性質を持ちます。とりわけ係活動は、サービス業全般の他、エンターテインメント、マスメディア、デザイン、福祉等につながるのみならず、潜在的な社会的ニーズを感知して起業することにもつながる性質を持つものです。当然のことながら、実社会においてこれらの仕事に従事している人たちの圧倒的大多数は、自分たちのやりたいことをやりたいように楽しく行って日々を送っているわけではありません。自らの仕事に楽しさや働き甲斐を見出しつつも、自らが提供するモノやサービスが人々の幸せに貢献し得ているか否かを厳しく問い、常にその改善・向上を図りつつ、社会的な役割を果たしています。どんな仕事であっても、自己満足のみに終始すれば、その存続の見込みはありません。

     当番活動は、教師の指導に基づきつつ学級内の児童全員が公平に交代して役割を担う活動です。その遂行の過程における各自の創意工夫は当然求められますが、重心は、与えられた役割を誠実に果たすことに置かれます。一方、係活動は、何をどのように実行するかという構想段階から児童の創意が重視され、その実践のプロセスにおいても自律的な計画立案・実行・評価・改善が不可欠ですし、そのためには自らの活動をメタ認知するスキルも求められます。当番活動と係活動の価値に優劣を付けることは不可能ですが、今後の社会において、より重視される資質・能力を高めるチャンスは係活動の方に多く存在するとも考えられそうです。

     無論、小学校に入学したての1年生から、当番活動と係活動とを厳密に区分し、その上で「係活動は単に自分たちが楽しければいいというものではないのですよ!」と強い指導をしてしまったのでは、子供たちは萎縮してしまいます。低学年、特に1年生の段階では、教師が主導性を発揮しつつ、児童一人一人が、学級内の友人たちと協力してみんなのためになることができたという成功体験を得られるよう指導・支援をすることが大切です。友達と協力すること自体も楽しいし、誰かのためになることができると自分も嬉しくなる、という実感がもてるように工夫して指導することが何より重要でしょう。低学年においては、当番活動と係活動とが渾然一体となっていても大きな支障はないと思います。でも、高学年になる頃までには、当番活動・係活動それぞれの本来の姿にできる限り近づいた実践を是非ともさせたいですね。

     言うまでもなく、キャリア教育は全ての教育活動を通して実践するものですので、ここで当番活動や係活動だけを焦点化した実践を推奨しようとしているわけでは全くありません。けれども、当番活動や係活動をキャリア教育実践の大切な機会として十分活用しないとしたら、それはもったいないとしか言いようがないなぁと強く思います。


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藤田晃之

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