本文へスキップ

Welcome to Fujita's Lab!

〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学人間系

キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第61話 夏季休業後の学校再開と新型コロナウイルス感染症対策(2021年8月22日)

  •  児童生徒の皆さんの夏季休業(夏季休暇)もまさに終盤ですね。

     8月前半の猛暑、賛否の議論の中で開催された東京オリンピック、その後の記録的な豪雨、そして、デルタ株を中心とした新型コロナウイルスの急速かつ大規模な感染再拡大。多くの先生方や保護者の皆様は、様々な不安をお感じになりながら夏季休業後の学校再開を目前としていらっしゃることと拝察します。

     このような中で、一昨日(8月20日)、文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課から、事務連絡「小学校、中学校及び高等学校等における新学期に向けた新型コロナウイルス感染症対策の徹底等について」が発出されました。
    https://www.mext.go.jp/content/20210820-mxt_kouhou01-000007004_1.pdf

     既にマスメディアでも大きく取り上げられていますので、詳細の紹介は割愛しますが、「学校は、学習機会と学力を保障する役割のみならず、全人的な発達・成長を保障する役割や居場所・セーフティネットとして身体的、精神的な健康を保障するという福祉的な役割をも担って」おり、かつ、「地域一斉の臨時休業は、当該地域の社会経済活動全体を停止するような場合に取るべき措置であり、児童生徒等の学びの保障や心身への影響等の観点を考慮し、慎重に検討する必要がある」という前提の下で、
    ○特に小学校及び中学校については、地域一斉の臨時休業は避ける
    ○緊急事態宣言の対象区域の高等学校については、設置者の判断により、時差登校や分散登校とオンライン学習を組み合わせたハイブリッドな学習等の可能性を積極的に検討し、学びの継続に取り組む
    という方針を明示しました。また、学校で児童生徒等や教職員の感染が確認された場合は、「感染が広がっているおそれの範囲に応じて、保健所等と相談の上、学級単位や学年単位など必要な範囲で臨時休業とすることが考えられる」という指針も示しています。さらに、臨時休業や出席停止等により、やむを得ず学校に登校できない児童生徒等に対しては、「教科書と併用できる教材等(例えばデジタル又はアナログの教材、オンデマンド動画、テレビ放送等)を組み合わせたり、ICT 環境を活用したりして指導することが重要である」ともしています。

     つまり、国として、一斉臨時休業措置は執らないという方針を明示したわけです。確かに、現時点の日本では強制力を伴うロックダウンのような施策は実施できないことに加え、緊急事態宣言を発出したところで、昨年4月の第1回宣言時のような影響力はもはや期待できない現状に鑑みれば、学校だけが全国一斉に休業となった場合に生ずる混乱は容易に想像がつきます。家庭内で子どもの勉強のフォローをしつつ昼食などを共にとることなどに大きな支障がない家庭と、そういったこと自体が困難な家庭との格差は広がる一方ですし、休業期間が長期化すれば、子どもの面倒を見るために休暇を取らざるを得ない労働者に対するハラスメントや雇い止め、不当な解雇などのケースも頻出するでしょう。

     その一方で、全国的にデルタ株を中心とした新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、10代及びそれ以下の子どもが感染するケースが急増していることも事実です。すでにインターネット上では、一斉臨時休業措置は執らないという方針に対する強い批判も多く発信されています。その大半は、学校におけるクラスターの発生やそれによるさらなる感染拡大を危惧し、デルタ株に感染した場合若い世代でも発症するケースが少なくないことを指摘するものです。これらの結果としての医療崩壊を懸念する意見も多いことは言うまでもありません。

     また、夏季休業の延長を決定した自治体も一部にあり、ネット上ではそれらの決定に対する賛否についても様々な議論がなされているところです。現状では、そのような方針への賛同と文部科学省への批判が圧倒的多数を占めていると言って良いでしょう。

     以下は、文字通りの私見に過ぎませんが、8月20日付の事務連絡で示された文部科学省の方針は、当面の間(少なくともこの1~2週の間)、変更される可能性は高くないと推測します。なぜなら、現時点において、学校におけるクラスター発生が極めて少数にとどまっているからです。

     昨年春の全国一斉臨時休業の際、その必要性そのものに懐疑的な声が高まったことをご記憶の方も多いと存じます。子どもは発症しないことが多いし、仮に発症しても重症化しないのに、多くの子どもの学びを止め、集団生活による楽しみや成長の機会を奪うとは何事か。子どもにとっての数ヶ月と大人にとっての数ヶ月の違いを理解していない。家庭環境の違いによる格差の拡大をどうするのか。……例を挙げればきりがありません。

     このような経験を踏まえれば、文部科学省が全国一斉の臨時休業を直ちに宣告することは想定しにくいと思われます。とても悲しいことですし、想像もしたくないことですが、学校でのクラスターが一定程度発生し、その事実を基にしつつ、当該学校限定の、あるいは、狭い範囲の地域に限ったやむを得ぬ対応策として臨時休業措置を執るというプロセスが現実となるように推察します。

     その間に、12歳以上の希望者に対する抗新型コロナウイルスワクチンの接種が進み、学校でのクラスターが更なる感染拡大となりにくい状況が形成され、さらに、抗体カクテル療法をはじめとする各種の治療薬が効果を上げて今回の第5波がピークアウトすることに期待を寄せるしかないのかもしれません。

     もし仮にこのような推測が現実となった場合、夏季休業終了後の学校は、これまで同様、感染症対策の徹底を継続し、感染者・濃厚接触者とその家族、及び、ワクチン接種ができない人や接種を望まない人に対する誤解や偏見に基づく差別を行わないよう指導することに努め、不安やうつ症状などに直面する子どもたちの心のケアにも十分配慮しつつ、教育活動を再開することになります。

     先生方の日々のご苦労の大きさを想像するだけでも、ただただ頭が下がります。

     でも、このような先生方のご尽力をもってしても、デルタ株を中心とした変異株の校内感染は完全には防ぎ切れないのではないかと予測せざるを得ません。とりわけ小学校の中学年頃までは、ソーシャルディスタンシングを常に意識して行動すること自体が困難ですし、マスクを正しく着用したまま全員が1日を過ごしきることも現実的な想定ではないと思います。

     そして、遅かれ早かれ、全国的に見れば部分的ながらも、感染拡大を抑止するための臨時休業に入らざるを得ない学校が出てくるでしょう。全国的な感染者拡大が見られる現状を踏まえれば、このような臨時休業措置が国内のどの地域で執られても全く不思議ではありません。

     ここで重要となるのは、次の2点でしょう。

     まず、そのような臨時休業に至った場合、先生方が責を負うべきケースは極めて希であるということです。先生方が為し得る範囲の感染対策を徹底しても、子どもたち、とりわけ小学生による感染リスクの高い行動を完璧に制御することはできません。仮に校内感染のケースが確認されたとしても、先生方はどうかご自身を責めたりなさらないで下さい。悪いのは、感染力の強いデルタ株であって、先生方ではありません。

     次に、学級単位・学年単位などを含めて臨時休業となった場合には、「児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する」ことを目指して推進されてきたGIGAスクール構想の本領発揮が期待されます。すでに「1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」というハード面での整備については、大多数の学校で完了していると言って良いでしょう。必要なのは、それらを活用した創意工夫ある教育実践です。

     仮に万一、この駄文をお読み下さっている先生ご本人が、9月あるいはそれ以降において臨時休業に直面することになるとしても、それまでにはまだ時間があります。学校全体のご方針にもよりますが、可能ならば、一人ひとりの子どもたちが学校と家庭双方での端末活用に慣れ、家庭でのネット接続に慣れる機会を積極的に設けて下さい。そして、先生方も、端末を通して家庭における子どもたちの学びを支援する具体的な方途を探り、その模擬的な実践の機会をご設定下さい。

     この場合、8月20日付の事務連絡も指摘するとおり、「家庭の事情等により特に配慮を要する児童生徒に対しては、ICT 環境の整備のため特段の配慮措置を講じたり、地域における学習支援の取組の利用を促したり、特別に登校させたりするなどの対応をとることが必要であること」は言うまでもありません。けれども同時に、そういった特に配慮を要する子どもたちがいることのみを理由に、せっかく整備された「1人1台端末」が臨時休業期間中において活用されないままとなることは是非とも避けたいと思います。

     現時点においては、先生方のICT活用スキルには大きなばらつきがあるようです。私個人が耳にする範囲に過ぎませんが、GIGAスクール構想の経費によって整備された全てのタブレット端末に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を促進するアプリ(アプリケーションソフトウェア)が導入されていても、その活用にまで踏み出せず、従来通りの紙媒体の印刷教材のみを使っていらっしゃる先生方は希ではないという指摘もあります。不測の事態への備えは、不測の事態に陥る前にしかできません。お一人でも多くの先生方が、それぞれの学校の「1人1台端末」の力を最大限に引き出し、使いこなして下さることを強く願っております。

     新型コロナウイルスが学校教育に直接的な影響を与え始めてから、およそ1年半が経過していますね。私自身、いつまで続くのか……と徒労感と無力感に負けてしまいそうになることもあります。

     おそらく、やってくる未来は「post-コロナ」ではなくて「with-コロナ」なのでしょう。私たちは、新型コロナウイルスと、どうにか折り合いをつけながら生きていくしかなさそうです。

     例えば、季節性インフルエンザの場合、毎年、世界中では重症者が約300~500万人、死亡者が約29~65万人いると推計されています(厚生労働省, 2018)。ここでいう「死亡者」とは、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する「超過死亡」概念に基づく数値で、日本では毎年約1万人とされています(厚生労働省, 2010)。

     まさに、私たちはインフルエンザウイルスの脅威の中で生きていると言えそうですね。それでも、私たちがこのような中で暮らしていけるのは、ワクチン注射が普及し、対症療法に加えて廉価かつ有効な抗ウイルス薬が開発され、広く流通しているからではないでしょうか。無論、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスとでは毒性が全く違いますし、現時点では新型コロナウイスルの場合の超過死亡の推計が厳密にできていないので感染症としての社会的な影響の大きさついて安易な比較はできませんが、一刻も早く、新型コロナウイルスも「どうにか折り合いを付けられる」存在になってくれることを祈るばかりです。その日がもうじきやってくることを信じて、ここはみんなで踏ん張って乗り切りましょう。


バナースペース

藤田晃之

〒305-8572
茨城県つくば市天王台1-1-1
筑波大学人間系

TEL 029-853-4598(事務室)