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〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学人間系

キャリア教育 よもやま話Just Mumbling...

第68話 SUNO AIを使ってみました(2024年10月6日)

  •  昨年の1月より、1年半以上もご無沙汰いたしておりました。この間、複数の方から体調を気遣って下さるメールを頂戴したり、しばらく合っていない友人から「ちなみに、生きてる?」という電話をもらったりしました。こんなニッチなサイトでもご覧下さっている方がいらっしゃるのだなぁと改めて有り難く思った次第です。ご心配をおかけしておりましたことをお詫びいたします。

     この「よもやま話」の更新が滞っておりましたのは、私の健康上の理由からではございません。私個人は元気にしております。どうかご安心下さい。

     実は、父が他界してから最近まで、毎週末、実家で一人暮らしをしていた母親の介護に時間がとられておりました。母のことは機会があれば詳しくご報告したいと考えておりますが、今回は、かいつまんで申し上げます。父が倒れてから、母は要介護認定を受け、ケアマネージャーさんや訪問医療チームの皆さん、ヘルパーさんのご尽力の下で母親の一人暮らしを支えてきました。けれども、やはり限界が来てしまい、少し前に老人施設に入居することになった次第です。入居時や入居後もいろいろとありましたが、やっと平穏な日常が戻ってきた状況です。現在は、可能な限り週末に施設に足を運び、「今日もお風呂に入ったよ」「ここの支払いは大丈夫なの?」「みんな元気?」と毎回同じことを繰り返す母の話に付き合っております。ほんの数ヶ月前までは、こんなに穏やかに母親と接することができる日が来るとは思いもしませんでした。施設職員の皆様には頭が上がりません。

     このような中で、先月末、広島県府中市で開催された「第19回小中一貫教育サミットinびんご府中」に参加して参りました。初日、9月27日は府中明郷学園での公開授業研究会に、二日目の28日は「社会に開かれた教育課程」をテーマに掲げた第3分科会にそれぞれ出席し、身の程もわきまえずに指導助言の大役を承った次第です。本サミットに向け、この1年ほど府中明郷学園の先生方の授業づくりのお手伝いをさせていただいたのですが、当日の授業は、僕の想像を遙かに超えた素晴らしい展開でした。日本の先生方の力量の高さを再認識すると同時に、「地域の中に学校を、学校の中に地域を」という理念を掲げる同学園を支えていらっしゃる府中市の皆様方の学校教育への理解と子どもたちへの愛情を強く感じました。

     で、今回の「よもやま話」で皆様に特にご紹介したいのは、「小中一貫サミットinびんご府中・全体会」の冒頭を飾った動画作品、とりわけ、当該動画のために作成された楽曲です。この動画では、「ウェルビーイングの向上を図る小中一貫教育の創造」という大会テーマを基調としながら、府中市における小中一貫教育実践の写真や動画を編集し、そこに、映像と見事にシンクロした歌詞と疾走感のある楽曲が組み合わされています。

     素材となる写真や動画は学校側から提供されたものだと推察されましたが、この曲の歌詞は誰が作って、誰が作曲して、誰がアレンジし、誰が演奏して、誰が歌っているのか……総額で一体いくらかけてるんだ? 発想自体が低俗な僕としては、数分間の映像と音楽に費やされたカネが最も気になったのですが、府中市教育委員会の皆様から伺った答は、なんと0円。歌詞は教育委員会内で創作し、作曲・編曲(アレンジ)・演奏・歌唱を担当したのは人間ではなく生成AIだとのことでした。そして、その楽曲に合わせて、教育委員会内で写真や動画を編集して完成したのが全体会のオープニング動画だそうです。

     ……ウソだろ。そんなのできるはずがない。広い音域とダイナミックなコード進行によって展開される曲と透明感のあるボーカルは、絶大な人気の音楽ユニット「YOASOBI」さんを彷彿とさせます。こんなオリジナル楽曲が無料ですぐに作れる時代にすでになっていることに、僕は衝撃を受けました。

     福山から乗車した復路の新幹線の中で、僕は早速、教育委員会の方から教わったAI作曲サイト「SUNO」にアクセスしてみました。トップページには、当該サイトによって作成された数多くの曲が紹介されており、曲の作り方も丁寧に解説されています。(ネット上には、日本語による解説サイトや解説動画もたくさんありますので、気になる方はそちらをご参照下さい。)

     でも、新幹線内のWiFiの弱さがネックとなってしまい、早速オリジナル楽曲作成にトライ!という段階には至りませんでした。あぁ、早く試してみたいのに。

     無論、後日、仕切り直して「SUNO」にアクセスしたのは言うまでもありません。まず、無料のアカウントとSUNO専用のニックネームを作る必要があります。僕は名前にこだわりはないので、勝手に名付けてもらいました。(僕の名前は「FearlessPostPunk3020」。髪を金色にブリーチしてスパイラルパーマをかけていそうな感じですが、気にしません。)

     最も簡単な作曲方法は、今の気分とこれからなりたい気分を入力して、作りたい楽曲のジャンルを選ぶだけ。-I'm currently feeling [入力] and I want to feel [入力].My favorite genre of music is [入力].-これだけです。僕は、疲れていて元気になりたかったので、I'm currently feeling [exhausted] and I want to feel [positive]と入力し、ジャンルはよく聴くR&B(リズム&ブルース)にしました。僕が入力したのは、文字通り3語だけ。

     そうすると、本当にあっという間に楽曲が2曲できあがります。曲名と歌詞は同一ですが、曲が2バリエーション提示され、演奏・歌唱まで終わったものが2つ提示されるわけです。……マジか。ChatGPTを初めて使ったときも相当の衝撃でしたが、今回もそれに匹敵します。

     この2曲のうち、僕が気に入ったのは次の曲です。こんなオリジナル曲がたった3語の入力でできてしまうのです。
    Rise and Shine https://suno.com/song/d3162a79-8d50-4a24-9f2e-31b589e10a31

     歌詞の内容も曲調もアレンジも、率直に言って“ありがち”な感じであることは否めません。でも、こんな曲があっという間にできてしまうことは衝撃という他にありません。しかも、僕のためだけに存在する曲です。(無料プランの会員登録のため、楽曲の著作権はSUNOが所有していますが。)

     こんな魔法のような状況を目の当たりにしてしまうと、当然、欲が出てきます。オリジナルな歌詞であればもっと愛着がもてるはず。できれば、キャリア教育に関係するような曲がいいなぁ。

     そう思った僕の頭に浮かんできたのは、就活を控えた学生の皆さんがよく言う「自分が何をしたいのか、何に向いているのかよくわからない」という言葉です。そんな彼らに僕が伝えたいメッセージをラップで言ったら「Life ain’t just a choice」。そこにキャリア構築理論のエッセンスを加えたら、いい感じのラップができるかも。……と、ここまではスムーズにいったのですが、僕には韻を踏んだラップの歌詞を作り出す能力がないことに気づきました。

     そんなときに、僕を救ってくれたのはSUNOの著作権に関する説明文です。「Music made 100% with AI would not qualify for copyright protection because a human did not write the lyrics or the music. Writing the prompt does not constitute the creation of the song.(AIで100%作られた楽曲は、その歌詞や曲を人間が創作したものではないため、著作権保護の対象とはならない。歌詞の着想となる文章(プロンプト)を書くことは曲の創作にはあたらない。)」

     ということは、自分の著作権を主張しないのであれば、生成AIに歌詞を書いてもらってもいいということです。ならば、ChatGTP君の力を借りよう。

     僕は、とりあえず「なんちゃってラップ英語」で韻を殆ど踏めていない文章を書き、その冒頭に「次の文章を韻を踏んだラップの歌詞に修正してください」という趣旨のお願い文を英語で書き加えて、Chat GTP君に任せました。

     彼は本当に期待を裏切りませんね。僕の作文より遙かにドラマチックに、そして曲全体のメッセージとしては遙かにポジティブな歌詞を作ってくれました。しかも、僕には到底できない韻を踏んだ歌詞です。そして、SUNOの「オリジナル作成(Custom)」ボタンを利用してその歌詞をペーストし、曲のジャンルを「Underground Hip Hop, Rap」に指定してできたのが次の曲です。
    Time to Unwind https://suno.com/song/1744b675-35d2-4df0-91f7-3bafaf695dbb

     ……おぉ、いい感じです。曲もアレンジもかっこよく仕上がっているのですが、それにもまして驚いたのは歌唱の際のブレス(息を吸う音)です。少なくとも僕には人間が歌っているようにしか聞こえません。

     これにすっかり気を良くした僕は、「第29話 キャリア・プランニングはナンセンス?(2017年11月5日)」でご紹介した「Seize the fortune by the forelock.」という英語のことわざとギリシャ神話の男性神カイロスをモチーフにした「なんちゃってレゲエ」の歌詞の原型を書き、そこにVUCAの時代だからってビクビクするなよ、というメッセージも盛り込んでみました。

     こんなてんこ盛りの歌詞はさすがのChatGPT君もお手上げかな、と思ったのですが、そんなことは全くありませんでした。しかもSUNO君も余裕で対応してくれて、できあがったのが次の曲です。レゲエにしたのは説教臭さを払拭したかったからなのですが、我ながらいい選択だったと思います。(こういうのを一般には自画自賛と言いますが、実際に作ったのはChatGTPとSUNOです。)
    Seize the Fortune by the Forelock https://suno.com/song/c6d83a05-3cfc-45cc-8e59-c9b268c7a087

     申し遅れましたが、今回は、英語で全部作業をしてしまいました。日本語での歌詞作成は今後の課題です。(日本語は僕の母語ですので、まずはChatGPT君の力を借りずに挑戦したいと思う反面、それに本気で取り組もうとすると相当長い時間を要する予感がしました。)今回ご紹介した3曲の歌詞の詳細な内容にご関心のある方は、それぞれの歌詞をコピーして、無料の翻訳サイトなどで日本語に訳していただけましたら幸いです。余計なお手間を増やしてしまい、申し訳ありません。

     今回、ChatGTPやSUNOを実際に使ってみて感じたのは、生成AIと人間との共存の可能性です。生成AIは、こんな言葉の選び方は素敵だな、こんなコード展開はかっこいいな、という新たな発見をもたらしてくれます。また、同じ歌詞でも曲想の異なる選択肢を提示してくれますし、曲のジャンルを変えてみると、その幅は無限に広がります。作詞をするにせよ、作曲をするにせよ、アイディアの枯渇やスランプは誰にでもやってくると推察します。そういったときに、打開につながるヒントを得ることができそうですね。

     また、今回ChatGTPやSUNOが提示してくれた作品から、僕は手堅さを感じ取りました。「えっ、そう来るか」という驚きや感動は味わえない一方、そつがない。秒単位で作詞がなされ、同じく秒単位で作曲・アレンジ・演奏・歌唱が完了するというスピード感には感嘆する以外にはありませんが、メガヒットになるかと言えばならないでしょう。でも、今回ご紹介した曲は、今の僕にとってはすでに特別な存在です。ありがちな曲かもしれませんが、少なくとも僕個人のオーダーに応えて作成されたという特別感を減退させるほど粗雑な作りではありません。ということは、僕のような素人が「素敵だな」と思える程度に留まる作品であれば、プロの作詞家や作曲家、アレンジャーや演奏家、歌手でなくても、生成AIが作ってしまえるということですね。人間がプロとして生きていくためには、この水準を超えていく必要があるわけです。

     おそらく、これは、音楽の世界に限らずに言えることではないでしょうか。人間が活動する様々な領域において、一定レベルの「良さ」は生成AIが達成してくれます。それらの対象は今後ますます広範となり、水準も高まっていくでしょう。しかも、それらは時間的な経過と共にどんどん安価に、場合によっては無償で提供されるようになります。でも、そのような「ありきたりの良さ」を超えた、心の琴線に触れるような行為は人間にしかできない。無論、これは教育実践においても当てはまることだと強く思いました。

     今回のよもやま話を閉じるに当たり、僕の中で、常に無力感と焦燥感が消えない今日の紛争問題をめぐってChatGPT君とSUNO君の力を借りて作った曲を紹介したいと思います。こんなものを作ったことろで、ロシアによるウクライナ侵攻やガザ・イスラエル紛争の解決の糸口が提示できるわけでは全くないのですが、何もしないではいられなかったというのが正直なところです。
    Words of Peace https://suno.com/song/37fb011f-09a6-4bef-a2d1-cb9535ecff73

     今回、本当に久しぶりによもやま話をお届けでき、僕自身ほっとしています。週末、こうして自分の思考の整理をするための時間を持つことは本当に重要ですね。皆様もどうかお身体を休める時間を確保なさって下さい。

     最後になってしまいましたが、能登半島、とりわけ輪島地域の皆様に心からお見舞い申し上げます。被災された皆様が、少しでも早く、笑顔で一日を終え、熟睡し、清々しい気分で翌朝を迎えられるようになることを強く願っております。


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藤田晃之

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